お気持ちだけ頂きます。
日常で起こる些細なこと。
自分の発する一つ一つの発言や行動が、
自分を取り巻く世界を作っていく。
当たり前なのだけれども、
人が多く、情報に溢れた毎日では、
なかなか気がつけない些細な日常のお話。
とある山の麓で暮らすワタシが綴る物語。
【山暮らしの手帖】書き始めました。
大橋鎭子さんに愛と尊敬を込めて。
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とある日、カフェで働くワタシ。
「こんにちは!」ニコニコしながら来店してきた常連の男性客。
お昼過ぎのこと。カフェにある大きな窓の外では、太陽が照らす雪山がキラキラと光っている。お昼ご飯を食べた直後のワタシは、許されるなら昼寝をしたいくらい、のどかな気持ちでカフェに立っていた。いつもと変わらない平和な昼下がりだった。
ゲレンデからスキーで降りてきたであろう男性客は、顔が日焼けして、ゴーグルの形が出来上がっている。「今日もいい天気でめちゃくちゃ気持ちいいなあ、早い時間だけどもう飲んじゃう!ハイボール一つお願いします!」
お腹いっぱいのワタシは、そんな威勢のいい男性客に「美味しく飲めそうですねえ」と微笑む。「間違いなく美味しいと思う!今日はいい日だ!」と目一杯の幸せを噛み締めながら男性が言う。
差し出したハイボールを一気に飲み干し、「もう一杯ちょうだい!」とお代わりしてきた。
相変わらずお腹が一杯でぼーっとしていて、あまり手際が良く動けない。そんなワタシに全く気がつくこともなく男性客は言った。
「オネエサンも何か飲む?いい日だから奢っちゃう!」
反射的に出てきたワタシは、「あ、大丈夫です、お腹いっぱいで...」とぼーっとしながら答えた。
「ああ、そう」
会話が終わった。
静かなカフェ。新しい会話は無い。
グビグビとハイボールと飲み干した男性は、「じゃ!また!」と言い残し、颯爽とカフェを後に去っていった。
男性が去って数分後に気がついた。ああ、さっきのワタシの回答は模範解答ではなかった。もっともふさわしい言葉は、
「お気持ちだけ頂きます、ありがとうございます」
だったのかな。
うん。
うんうん。
この言葉が、一番しっくりくる。
「お気持ちだけ、頂きます」
感謝をしっかり伝えながら、今は要らないという自分の意思を丁寧に伝える返事。さっきのシチュエーションにぴったりハマる言葉だ。今後の反射的な返事のパターンとして、頭の片隅に入れておこう。
相変わらず、お腹がいっぱいでぼーっとしている昼下がり。
「お気持ちだけ頂きます。」
いい言葉だな。
何度も何度も、同じ言葉を頭の中で繰り返していた。
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