97 Canon in D Major (Pachelbel's Canon:『Ordinary People』)
パッヘルベルのカノンとして知られるこの曲を、改めて聞くようになったのは、映画『普通の人々』を見てからです。『普通の人々』は、名優ロバート・レッドフォードの初監督作品(1980年)で、俳優としてとれなかったアカデミー賞を、この映画で監督賞と作品賞を一度に獲得した秀作です。
当時、(臨床)心理学を学んでいましたが、トラウマやグリーフという言葉や概念も、学びの中にはありませんでした。物語では、そういう重たい事態が、一見ありふれた“普通”の家庭に降り注ぐのです。どこが“普通”なんだろう、と思いました。
しかし、いまになってよくよく考えてみると、この映画が、私のその後の福祉や臨床や教育といった仕事の原風景というか、構造物の基礎となっているように思えます。それは、あたかも映画の全編を通じて流れるカノンのように、通底する地下水のような働きをしてきたようなのです。
この物語は、確かに劇的な要素を含むストーリーですが、どんな家族もトラウマやグリーフを抱えない家族はありません。それはある意味、普通なことなのだと考えられると思います。しかし現代社会は、その重みが、一人一人の個人やひとり親家族などの小さな単位である家族に重く圧し掛かっていることが、非常に深刻な影響を及ぼしているのだと思います
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