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【短編】樹形図

 私以外の人間はすべてロボットなんじゃないかと、疑っている。

 この疑問を抱いたのは、つい最近の話だが思い返せばいままでの人生でこの突拍子もない主張に沿う出来事は散りばめられていたように思う。始まりは、会社の新人向けの営業マニュアルを作成していた時だった。

 やり取りの中で、予想される相手方のリアクションへの対応をフローチャートとして作成していた際に、こんなに簡単に人間の反応を図式化できるなんて、まるでプログラムのようだ。と思ったことだった。そこからは誰と接する際であっても、頭の中でフローチャートを描いた。

 そんなことを続けていくうちに、想定外のことはなくなってしまった。もちろん人間はロボットではない、心臓が波打ち血が巡る生き物だ。しかし、人生において全ての出来事が想定通りにおさまってしまうということは、ショックだった。

 フローチャートを描き始めてから、私の営業成績は鰻登りとなり、社内でも過去ギネスの実績をたたき出すことが出来た。最初は嬉しかったがやっていることは、頭の中のフローチャートに従っていくのみの単純作業だった。すぐに空しい気持ちになってしまった

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 あらゆる人間関係が中身のないくだらないものに思えた。感情移入できなくなった。関心が持てなくなった。自分の存在とは何か、といった思春期のような悩みを持ってしまった。

 私の最愛の妻でさえ、もはやロボットかのように感じてしまう。もちろん最大限の抵抗はした。フローチャートにない行動をあえてとって、新しい反応を確認した。しかし、それは新たな枝葉は伸びた程度のものでしかなく、妻を一人の人間として認識できるほどの衝撃はなかった。

 私は妻を愛している、この感情は真実だ。プログラミングされたものではない、暖かい血の通った想いなのだ。だからこそ、私は妻が人である証明をしなければいけない。フローチャートを破壊しなければならない。新しいアクションを起こさなければならない。

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妻が泣いている。

私はため息をついた、また失敗したか。

泣きじゃくりながら妻はいつものセリフを言う。

「あなたが、何を考えているのかわからない」

 またここに分岐してしまったか、最近はここに着地してしまうことばかりだ。もっと突飛で、新しい行動をとらないと。フローチャートにない反応を得ることはできない。

私は妻を愛している。

だからこそ妻を人間だと証明しなければ。


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