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古谷実の名作「ヒミズ」を語る
・なま夏
映画「なま夏」を見た。1時間もない短い作品だったのでサクッと見れたが、内容は「生臭くて仕方がない、夏場に放置した洗い物」のような感じ、もしかしたら映画のタイトルもこれの略じゃないのかって思うぐらいだ。
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同監督作品の「ヒメアノ~ル」も最高なので、ぜひ見てほしい。
V6の森田くんが「森田」という名前の連続殺人鬼役で登場するのだが、スマートではないところがいい。ナイフで心臓を一突き、なんてことは決してできない。不器用に何度も何度も刃物を突き立て、パンツ一丁で血みどろになりながら荒い息を吐く姿は、「私の知らない間にジャニーズ辞めましたか?」と疑問を抱くほど不格好さだ。
ちなみにこの「ヒメアノ~ル」は漫画原作作品であり、作者は「行け!稲中卓球部」で有名な古谷実だ。
今日は私が中学生時代に強烈な影響を受けた古谷実作品について語りたい。
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・古谷実の作風について
古谷実は、前述した「稲中卓球部」や「グリーンヒル」といった作品のイメージが強いかと思う。思春期の青少年をメインとしたギャグ漫画のイメージだ。
しかし、古谷実作品は2001年に連載された「ヒミズ」を機に、暴力的で残酷な、ダークな作風へと変化していった。ちなみに「ヒミズ」は「ヒメアノ~ル」と同様、実写映画化されたが原作とテーマが異なるため、賛否両論となっている。
「ヒミズ」以降の古谷実作品は、たいていこの3つのワードで説明できる。
・さえない主人公
・キレイなヒロイン
・理不尽な暴力
こんな感じで簡単に説明できちゃうぐらい、一種定型文化してしまっている節もあるのが正直なところではある。
そんな作品群の中で、最も私の記憶に色濃く、いや爪痕といった方が正しいだろう。爪痕を残している作品が、「ヒミズ」である。
私が中学生の頃に読んだ作品だ。
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・こんなもん中学生に読ませちゃイカン
まずは簡単なあらすじを説明したい。
主人公である住田は、中学生ながら貸しボート屋を営んでいる。それは身勝手に蒸発した父親と、新たに男を作ってはなかなか帰らない母親が原因だ。中学生ながら現実に絶望している住田は「普通に」生きることを目標としている。そんな儚い願いを社会は叶えてくれない…
といった感じだ。
全4巻のうち、第1巻は達観した価値観をもった住田とその周りの友人たちとのギャグ調の日常風景が描写される。
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全巻読み終えてからこのシーンを見ると、本心では住田は「自分は普通にすらなれない可能性が高い人間であると気づいていたんじゃないか」「悪い意味で特別な人間であると自覚していたんじゃないか」とそう思えてならない。
そんな住田の日常は少しずつ崩壊していく。
まずはヤクザが母親が作った借金を取り立てにボート屋へやってくる。しかし、住田は決して譲らない姿勢で食い下がる。屈強な男に刃物で傷つけられても涙ひとつ流さない。
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強い決意を示す住田に対して、現実はあまりにもリアルだ。母親は新しくつくった男と駆け落ちしてしまう。簡単な書置きと、気持ちばかりの金を置いて消えた。住田は、中学生にして親に捨てられた。
「自分の乗った飛行機が落ちると思うか?家が放火されると思うか?通り魔にあうと思うか?宝くじが当たると思うか?親に捨てられると思うか?クソッ!クソッ!クソッ!」
高望みせずに、普通に生きるための努力をしてきたはずが
普通に生きることを許してくれない現実に絶望した住田の元に、蒸発していた父親がフラっと姿を現す。相も変わらず、まともな大人ではない父親に対して、衝動的に暴行を加えてしまう。
![](https://assets.st-note.com/img/1644752906323-1CuQuHF37E.png)
父親を殺してしまったことで、絶対に「普通の生きていく」ことは不可能だと確信した住田は自分自身を、さらなる絶望の闇へ潜り込ませてしまう。
殺人を犯した人間に生きる価値などない、そう考える住田は「いまの自分の命に価値はない、ならせめて誰かの為に命を賭してから自殺しよう」と決意する。
あまりに極端な選択だが、「人生には必ず意味がある」と信じることで不幸な境遇を跳ね返して生きていた住田は、現状の自分が生きる上ではそういった考えしかできなかったのだ。
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・カッコよかった主人公が堕ちていく
極端に尖った思想に、ヤクザに刃物で脅されても折れない住田に
中学生の私は「かっこいい」と感じた。
彼には特別な才能も、優れた境遇もなかったがそれらを受け入れた上で現実的な思想を持っていた。それは所詮、中学生程度の幼い思考ではあるのだが、読み手である私もまた中学生だったためか、住田は輝いて見えたのだ。
その住田が話を進むごとに、絶望して打ちひしがれて、やがては幼い中学生の身の丈にあった弱音を吐いていくようになる。
つまり、「かっこよくない」になっていくのだ。
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世間と自分自身の思想によって、かっこよくないになる住田を見て、読み手の私もまた絶望した。年代が近いことからも自分自身に投影していた節もあったのかもしれない。
「自分ならもっと
もっと・・・・
いろいろな事が
ちゃんとできると
思ってた・・・・」
思春期のころは、誰しもが根拠のない、曖昧な自信を持っていたのではないだろうか。そういった自信は、様々な経験を通して、角が取れて、形を変えて根拠のあるものになったりするだろう。
住田は、あまりにも急すぎる展開に一気に自信をへし折られる。根拠なんてない!お前にはなにもできない!と跳ね飛ばされる。
読み手である私も同様に跳ね飛ばされた気分だった、そんなにも現実はシビアなのか、と。
「うどんが食べたい・・・」
「布団に入りたい・・・」
追い詰められた末の弱音はなんとリアルなことか。
こんな当たり前の願望すら叶えられない現状にあることを読者に知らしめるセリフだったように思う。
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・さいごに
「ヒミズ」は最終的に堕ちるところまで堕ちて、最悪の結末を迎える。
ラストシーンはあまりにもあっけなくて、読み終えた瞬間に目の前が暗転して、無音でエンドロールが流れたような感覚だった。
改めて振り返れば、住田は不幸な境遇にあったが、決して再起不能ではないように思う。自分の身を犠牲にしてくれる友人がいたし、理解のある彼女までいた。
しかし、それは私が大人になったからであって、中学生の住田にはそんなことを客観的に評価することは決してできなかっただろう。
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作中でそのことを指摘してくれるのは皮肉なことに、過去に住田を刃物で脅したヤクザだ。「お前はいま「病気」だ。腐るほど道があるのに勝手に自分を追い込んでる…」間違いない意見だが、これがまともな大人の言葉だったとしても住田に届いただろうか。
大人になった今、この作品を初見で読んだときに思う感想は、まったく異なるだろう。
中学生の私は読み終えた後に、ショックすぎて動けなくなって、かなり尾を引いた。しかし、その経験はあの時の年齢の私でしか味わうことはできなかっただろう。
胸糞の悪い作品が好きだ。
生きる意味とは、人生とはみたいな漠然とした不安や悩みがある。
現在中二病まっさかりだ。
そんな人にオススメの作品だ。全4巻で、いまなら上下巻のデラックス版もあるので非常に読みやすい。いや、内容は読みやすいとは到底言えないんですけどね…。
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