【小説】死生活と石 #2
「ねえねえ、君はここをどう思う?」
飯を口に入れようとしたタイミングで、隣から声を掛けられた。誰かと思えば、自分と同い年のリュウヤだった。同い年ではあるが親しくはない奴だ。
「ここ? 飯を食う場所だ」
キョウスケはそう答えると、飯を口一杯にほおばった。その姿を見ながらリュウヤは固まる。キョウスケの答えは、予想していなかったものだったようだ。
「はっはっは! 違う違う! 『ここ』っていうのはこの場所のことじゃなくて、この村のことだよ! それを君はどう思う? って、僕は聞いたんだ」
「この村?」
キョウスケは悩んだ。
それも当然のことで、その質問はキョウスケにとって、「この世界をどう思う?」と、聞かれているのと、同じことだった。
「俺はこの村以外、何も知らない。だからそんな質問をされても、何も答えられない。それはお前も同じはずだ。一体俺に何が聞きたいんだ?」
キョウスケに訝しがられるリュウヤだったが、そんなことお構いなしに、リュウヤは表情を明るくする。
「いやいや、その答えだけで十分だよ。やっぱり君は、僕が想像していたような人だった。……合格だね。詳しい話は僕の部屋で話すから、昼飯食べ終わったら僕の部屋へおいでよ。ね?」
リュウヤはそう言うと、キョウスケの返事も待たずに行ってしまった。走り去る背中をキョウスケは目で追う。
台風のような奴だった。小さな村の中とはいえ、ほとんど初対面に近い者に対してのコミュニケーションとしては、ずいぶん常識とはかけ離れていたように思える。
それにしても不思議なことを言う奴だ。「この村をどう思うか?」そんな質問をされたのは生まれて初めてだった。今、ゆっくりと考え直しても答えは出ない。質問をしたあいつには、答えになるようなものがあるのだろうか。
そして、キョウスケには、一つ最も引っ掛かることがあった。
あいつは俺に『合格』と言った。しかし俺は何一つ、合格とされる答えを言っていない。ではなぜ『合格』となったのか……。
キョウスケは大きく息を吐いた。
これらの大きな謎を残していかれると、さすがに無視するわけにはいかないな。
遠くで獣が鳴く声がする。
キョウスケは、さっさと昼食を胃袋へ流し込んだ。