【小説】死生活と石 #3

「ここか」
 小さな村なので、親しくない者の家も、数人の村人から聞けば知ることができた。
 簡単な作りの木製扉をノックすると、自分が来るのを待ちわびていたのだろうか、すぐに扉が開かれた。
「やっとお出ましだね! さあ中に入って、入って!」
 キョウスケが一歩家の中に足を踏み入れるや否や、すぐに扉は閉められた。
「そこへ座ってよ」
 そう言うのと同時に、リュウヤは鍵を掛ける。この村に、あまり鍵を掛ける習慣が見られないために、それが違和感にキョウスケの目には映った。
「そこへ座れ」と言われ、「どこに?」と聞き返そうと思ったが、その必要は無かった。リュウヤの部屋は、色んな物でごった返しており、明らかに数分前、人為的に作られた円形の空間がそうなのだと理解した。
「よく僕の家が分かったね。それとも知っていたのかい?」
 キョウスケが座って、一呼吸空けて、リュウヤが聞いた。
「いや、知らなかった。だが、数人の奴らに聞いたら教えられた」
「そう。良かったね」
 二コリとしながらリュウヤは言った。
「それより、『合格』って何だ? どういう意味だ?」
 回りくどいことを嫌うキョウスケは、すぐに本題へ入った。
「ん? 『合格』は『合格』だよ。君は僕に選ばれた。一緒にこの村を出て行く相棒にね」
「は? 村を出て行く?」
「うん、そうだよ」
 出て行くという言葉は、二人の間で大きく意味が違った。リュウヤの言い方は、ただ単に散歩に出かけるという、おとなしめなもののようだった。実のところそうなのか? と、キョウスケは思い、「それは散歩に出かけるという意味か?」と聞くと、「何を言っているの?」と冷たく返された。
「村を出るのは禁止されている」
 色々言いたいことはあったが、これで片が付くはずで、訳の分からない話は止めにしたかった。
「そもそも、それがおかしいんだよ。そんなの、自分たちの自由だろ」
「…………」
 そうかもしれない、と思ったが、なぜかそれが、言ってはいけないことだと思い、言えなかった。それどころか、心で思うだけでも違反行為のように思われた。
「そうかもしれない……って思ったんじゃない?」
 キョウスケは心臓が縮み上がる気持ちだった。しかし最も驚いたのは、リュウヤに言い当てられたことではなく、言い当てられてそれほどまでに驚いた、自分自身に対してだった。
「当たったでしょ? 僕には分かるんだ。……でもね、だからこそ君は『合格』なんだよ」
 リュウヤは続ける。キョウスケは、混乱の渦の中心にいた。

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