手
今日この手は
何に触れ何を掴み
何を生み出しただろう
携帯電話に
キーボード
自転車のハンドル
深まる夜に
一日を振り返る
じゃがいもに
おろしたての石鹸
カチコチにこったあなたの肩
この手の一日を振り返れば
偽らざるわたしの暮らしぶり
この手が刻んだ歴史は
余すところなくわたしの生き様
特別な手入れをしてあげるでも
僅かの休息を与えるでもないのに
手よ
お前はわたしの末端で
何とひたむきに 淡々と
役目を果たしてくれるのか
わたしの手よ
これほど大きな宝を
授かっていたにも関わらず
お前に「ありがとう」と
ただの一声
掛けたことさえなかった……
その昔 因幡の源左は
時々その両手を
恭しく自分の頭上に掲げ
おしいただいていたという
ゴツゴツで 皺だらけ
実業に生きたその人の手は
きっと優しく
誰よりも大きな手だったろう