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「スマート農業」が拡散する、農業機械の誤ったイメージ

最近、「下町ロケットで稲刈りしてる農機具を見たよ~」「最近クボタがめっちゃCMやってるよね!」などのお声掛けをして頂く機会が増えました。

最近色々なメディアや企業様のPRもあり、「農機具」「農業機械」というものの認知度が世間でも高まってきたような気がします。

日本は大手4社のトラクター市場を中心に動いている

第2回の記事を作成しようと思ったのもWeb記事がきっかけだったのですが、今回も同様に、NewsPicsなどのコメントを見ながら「農機具業界って一般の方に全然知られていないんだなぁ」という実感を強く持ちました。

確かに日本の農機具の技術は素晴らしく、中古機械がアジアで人気なのも事実なのですが、テクノロジーの実態を正しく知ることも大事で、スマート農業において先進的な取り組みをしていることも事実なのですが、「農機具」の全てで日本が優れているわけではないのです。

まず、一口に農機具と言っても、様々なジャンルの機械があります。

一般的にも知名度のある「クボタ・ヤンマー・イセキ」はトラクター・コンバイン・田植機の三種の神器(トラコン田)を開発する国内大手メーカーで、この3社に「三菱マヒンドラ農機」を加えた4社が、トラクターメーカーと呼ばれる大手メーカーです。

この中でもシェア・販売量・ブランド力ではやはりクボタがかなり高く、ほぼ全ての農機具店はいずれかのトラクターメーカーの商品をメインで取り扱っていることが殆どです。日本は稲作中心の国ですからね。メディアで取り上げられるテクノロジーはこのあたりのものが中心です。

ちなみに「マヒンドラ」というのはインドの自動車企業で、現在は旧三菱農機にマヒンドラ&マヒンドラ社が資本参加しています。海外のトラクターメーカーだと他には「ジョン・ディア」などが有名ですね。「ランボルギーニ」のトラクターもバズ的な意味で有名になりました。

このあたりまではご存知の方も多いかもしれませんが、日本ではもちろん稲作農家だけでなく野菜・果樹等様々な農作物に恵まれた国ですから、農機具にもまだまだ種類があります。

農機具メーカーの名前、何割知ってますか?

例えば草刈機なら、自走タイプのものは「オーレック」「筑水キャニコム」「やまびこ(共立)」などが販売シェアが大きく、やまびこは販売シェアこそトップクラスですが、製品自体はオーレック社のOEM販売なので、実質オーレック社が国内販売トップと言っても過言ではないでしょう。

手持ちタイプの草刈機(刈払機)なら、「ゼノア」「スチール」「やまびこ(共立・新ダイワ)」「ホンダ」「丸山製作所(BIG-M)」、バッテリー製品では「マキタ」など、最近は海外メーカーをはじめ色々な10,000円程度の廉価な製品から50,000円以上するプロ向けの製品まで、様々なものが流通しています。

ホンダ・丸山製作所・マキタなどはホームセンター向けの流通が多く、農家の方が使っているのは「ゼノア」「スチール」「やまびこ」などが多いのではないでしょうか。

ちなみにクボタの刈払機はゼノアからのOEM供給で、トラコン田を除く草刈機・動力噴霧器などは殆ど自社製造をしていません。

ゼノア社は「コマツゼノア」という名前の方が有名ですが、現在はスウェーデンの「ハスクバーナ」グループの日本法人「ハスクバーナ・ゼノア」としてゼノアブランドを展開しています。

草刈機やチェンソーなどの小型農林業機器については、ドイツのスチール社、スウェーデンのハスクバーナ社が世界のシェアを争っているような状態なので、ハスクバーナよりもゼノアの方がブランド力がある日本は少し特殊な市場なんですね。

「スマート農業」とはそもそも何なのか?

草刈機以外にもチェンソー、防除機、ポンプ、ハウス、スプリンクラー・・・色々な市場があるのですが、一口に農機具と言ってもトラコン田以外に色々な市場があることがわかりました。

農林水産省では、スマート農業を「ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業を実現」と定義しています。
つまり、下町ロケットに登場するような無人運転ロボットは「スマート農業」の定義のほんの一部でしかないのです。

また、「スマート農業カタログ」のいうものも農林水産省から発行されていて、色々なチャレンジに取り組む事業が掲載されています。

こちらのカタログを見てみると、クボタ・ヤンマーなどの大手トラクターメーカーはもちろんのこと、システム開発を主事業とする企業の方が、ICT技術を活用して農業分野への取り組みにチャレンジしていることが印象的です。

これからそういった取り組みにチャレンジしたいという企業の方からご相談を頂いた際にお話をさせて頂くのは、「まず農業分野のリアルな市場について正しい認識を持つ」ということです。

例えば前述のハスクバーナ社(スウェーデン)などは、過去に家電大手のエレクトロラックスグループであった経緯を活かし、自社の強みである農林業・造園現場に密着したロボット芝刈機 Automower™という革新的な製品の開発に成功し、現在では世界シェアの半数を獲得しました。

そういった意味で言うと、トラクターメーカーがアジア市場を狙い、大規模農場に適したICT技術に投資するのは当然の流れであり、国内ではホンダ・ハスクバーナの2社がシェアを争っているロボット芝刈機は日本のすべての農業技術が世界で先行できているわけではないことの証明でもあります。

「スマート農業」のバズワード化

最近は「バズる」というマーケティング用語も一般化しましたが、日本でのバズワードというと、僕ははじめに「クラウドコンピューティング」という言葉が頭に浮かびます。

当時僕はソフトウェア業界にいたのですが、SaaS型・ASP型サービスの開発を「クラウド」と言うだけで一般の方から「すごい!先端的!」というように言って頂くことが多く、行政からも多くの予算が与えられ、多くのプロジェクトが濫立し、2010年代前半にはバブルのような状態が発生しました。

少し脱線しましたが、今の「スマート農業」の扱われ方はこの流れに少し似ていると思っていて、これらのプロセスを正しく評価する技術・仕組みが必要だと考えています。

「新たな農業を実現」しても、それが一般に普及しないお金持ちのためのテクノロジーであれば、日本の農機具業界は競争力を失い、「クラウド」のようにGoogleやApple、Amazonなどに後塵を拝する可能性もあります。

今回の記事を通じて伝えたいことは、”ニッポンの農業”という社会課題を解決するために、安易にバズワード的な「スマート農業」を評価するのではなく、一人ひとりがもっとリアルな視点から、様々な取り組みを評価し、議論し、より発展させていくことが業界にとっても社会にとっても必要なことではないでしょうか。

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