【僧侶の視点】真宗大谷派の運営状況について〜基礎知識と予算編〜
はじめに
今回の記事ではあまり一般の方は知らない(興味のない)真宗大谷派の運営状況について説明していこう。なぜか?多くの方がお布施をし、多くのお寺が宗派へとお金を納めているにもかかわらず、そのお金の運用のされ方があまりにも知られていないからだ。せめてなんのご縁かこの記事に辿り着いた方にはそのことを知っていただきたいと思い、執筆に至った。
と、その前に大前提として真宗大谷派ってどんな宗派かという基礎知識をここで確認しておく。もっと詳しく知りたいと言う方はぜひ東本願寺のHPやその他書籍を参考いただきたい。
宗派名・・・真宗大谷派(しんしゅうおおたには)
本 尊・・・阿弥陀如来(あみだにょらい)
宗 祖・・・親鸞聖人(しんらんしょうにん)
本 山・・・真宗本廟(京都の東本願寺)
全国の寺院数・・・およそ8500カ寺
教 義・・・阿弥陀如来をお頼み申し、信心をたずさえ念仏(南無阿弥陀仏)をし、極楽浄土へ往生を決定する。
いろいろと教義に関して異説を唱えてくる方もいらっしゃるだろうが、最低限かいつまんでいえばこのようにシンプルなものだ。
すでに阿弥陀如来の方から自分に救いの手が差し伸べられている、それに気づき、そのありがたさを心から感ずる時に念仏「南無阿弥陀仏」が唱えられ、自らも阿弥陀如来の方を向き、その救いに預かる。極楽浄土への往生、というのも別に即死するわけでは無く、自分の最終ゴール、目的地が定まると言うことだ。安心して旅ができるのも帰るべき我が家があるからで、目的地が決まれば今生きている我が身の生き方も改まってくるよね、という感じだ。
そして、それゆえに言ってしまえば高度な知識も必要ない故に、高度に哲学化したその他宗派とは一線を画し戦国期に広く民衆に浸透した。江戸時代に東西本願寺に別れたが、今日でもなお仏教教団としては日本最大級の規模を維持している。
(よく、日本史の教科書でも「悪人こそ救われる悪人正機」ということばかり取り沙汰されて、また阿弥陀如来の助けに預かる「他力本願」ということも一人歩きして、まるで浄土真宗がやりたい放題やっても最後は仏が救ってくれてハッピーみたいなとんでもない教えのように受け止めている方もいるが、これに関しては改めて記事を書きたい。当然、そんなではない。)
さて、前置きがかなり長くなったが、まだ戻るボタンを押していない奇特な方がいらっしゃることを願い、主題に入ろう。
予算規模
まず、「え?宗教団体に予算なんてあるの?」と言う疑問をお持ちになった方もいらっしゃるだろう。イメージとしては国がわかりやすい。国会で予算を審議し、その予算は内閣の指揮の元、各省庁いわゆる官僚が執行し、その利益は国民が享受する。
まさに真宗大谷派においてもこの通りで、国会に相当する宗会(しゅうかい)にて予算が審議され、内閣に相当する内局(ないきょく)の指揮の元、本山に置かれた宗務所(しゅうむしょ)、各エリアに置かれた教務所(きょうむしょ)にて宗務役員(しゅうむやくいん)が中心となりこれを執行し、各一般寺院や御門徒(信者)、広く一般の方を対象としたもろもろのイベントを実施している。
(この独特な運営形態についてもいずれnoteで記事にしたいと思う。ちなみにプロフの通り高嶺は宗務役員として宗務所で勤めていたよ。)
そして、真宗大谷派の予算についてその規模はなんと
87億円!!
多いと思っただろうか?少ないと思っただろうか?ちょっとした地方自治体レベルではある。
ちなみにこの予算は詳細とともに公開されている。以下を参照してほしい。
チェックポイント 収入の部の相続講金
さて、収支のそれぞれの詳細についてはすでに上の画像で紹介されているので知りたいという方は読んでいただきたいが、ここでは特に相続講についてより詳しく書いていきたい。
宗教法人「真宗大谷派」の予算87億のうち、実に47億、半分以上の収入がこの相続講(そうぞくこう)という科目になる。なぜ、これほど大きな金額になるのか、その成り立ちから書いていこう。
1 相続講の成立
ご存知の方もいらっしゃると思うが、今、京都府烏丸の地にある東本願寺は4度の火災を経て建て直されている。最後に火災にあったのは明治維新、蛤御門の変[1864年]の時だ。ちなみに合計4回とも全焼してしまったが、実は東本願寺自体に落ち度のある火災は1度きり、後は全て貰い火だ。
そして、明治維新後に全国の檀信徒の手により、文字通り総力を挙げて建て直された。その際に建材を取りまとめたり、本山からの指示を受ける司令所となっていたのが今日の各教務所の原型でもある。
しかし、さすがに4度の立て直しはきつかった。東本願寺は莫大な借金を抱えてしまったのだ。そこで考案されたのが相続講。門徒ひとりひとりが相続講員となり、定額を手次のお寺を通し東本願寺へ納めるのだ。
それまでのお布施と違い、明確に「本山を維持する」という目的のもと全国の後門徒に拠出を呼びかけ、しかもそれを一過性でなく年次のものとする。返礼として本山からは累積金額に応じた肩衣(寺ではなく一般の檀信徒が肩にかける袈裟のようなもの)や記念品、院号が授与されると言うわけだ。
要は、「うわ!あの人すごい綺麗な肩衣してる!」「あ!あそこの田中さんの葬式だったけど⭐︎⭐︎院って院号が法名についていたよ」とか、そういう目に見える差異を生じさせることでインセンティブにしたという側面もある。
とにもかくにもこのシステムは大成功。すんなり借金を返し終えて、現在まで続き、今日でも宗派予算の6割を占めるものとなっているわけだ。
ただしこれは義務金ではない。どこまでいっても「あなたが真宗大谷派を維持したいと思っているなら出してくれたらありがたい」金だ。決して強制徴取をして払わなければ檀信徒ではない、ということではない。そんなお金であるのに6割を占めているなんてすごいね。
2 相続講の現在
まぁ綺麗な言葉を並べて書いたが、ぶっちゃけ現在はほぼ破綻しているが熱心な方々のおかげでなんとか保っていると言う現状だ。
そもそも、これについて知らない住職が多い。知らない住職は門徒に説明しようがないので門徒も知らない。すると当然、次世代に伝わらなくなる。断言してもいいが、いまだに相続講を本山のいうような「教えの相続を目指して〜」などの気持ちで納めておられるのは一握りだ。
今は「院号や本山に納骨する代金」と考える人が圧倒的過半数を占め、その次が「何かよくわからないけど本山から払えと言われたから払う」という認識だ。
ほぼ義務金で成立している他宗派から見れば相続講=懇志・寄付金なので「真宗大谷派さんはすごいですね、懇志教団ですね」と褒められていたそうだが、内部の私の口から言えば相続講=代金・義務金でしかない。
そんな現状は本山も認識しているので宗派の改革案ではよくこの金額を改定しろだの義務金にしろだの見直せだのの意見はよく出るが、結局のところ現在の真宗大谷派の宗政における与党勢力である真宗興法議員団の議員の方々も内局もやる気がない。
「宗務改革推進本部」なんていかにも改革しますみたいな部署を宗務所に作ったはいいものの一体何の成果を挙げましたか?本当に必要ですかその部署、としか思えないほど実績がひとつもない。
この相続講にしたって大事大事と言う割には東本願寺ホームページには情報がゼロと言っていいレベルでない。何考えてんだ本山は。
話が少々脱線したが、現状はほんとうにこれだ。しかしだからこそ、本来の意義で拠出を続けてくれている一握りの方は尊重せねばならないし、たとえ代金や義務金認識でも出していただけているなら説明責任が住職にも本山にもあると私は感じる。
もしあなたが真宗大谷派の御門徒であるなら今度住職に相続講ってなんですかと質問してほしい。断言してもいいが、答えられない住職ならもう縁を切ったほうがいい。ろくな住職じゃないぞそいつは。
チェックポイント 支出の部の人件費
さて、そんなこんなで集まった87億の使い道だが、本山ででっかい儀式をやったり、全国から人を集めてイベントを開いたり、本山謹製の授与物を作ったりとまぁ色々と金がかかる。そして上記の画像で右下に小さく33億円と書いてあるのに気づいただろうか。この宗派、結構職員が多い。労働基準法で言えば大企業の部類に入るそうだ。
最近はこの人件費の割合が高すぎると末寺の何も考えていない住職が脊髄反射でクレームの電話を入れてくるが、逆だ。末寺の経済的困窮状況を認識しているからこそ事業の規模縮小、経費削減をし続けてきて、結果として削れない人件費の割合が大きく見えるのだ。
そう、この宗派、財政的に結構厳しい。それは全国で宗教離れ、寺離れと言われていて末寺でも厳しいのに本山が厳しくないわけがないのだ。
まぁこんな状況を改善するためにも宗務改革推進本部には期待していたが、結局金食い虫の烙印を押さざるを得ないほど動きが聞こえてこない部署に成り下がったのは残念でならない。このような意味ゼロの報告書は公開されているが、まさかこれを実績とでも言うつもりだろうか。せめてこんな報告書を出すなら未来への具体的なロードマップもつけて欲しかった。
https://www.higashihonganji.or.jp/news/notice/00266585/
さいごに
この87億規模の真宗大谷派たる教団は右肩下がりだ。20年後には消えているかもしれない。推しは推せるうちに推せ、というが、各お寺にお参りに行くなら今しかないかもしれない。