煙とともに消え去りたい夜
この間暑気払いとかいって飲みに行ったはずなのに、また暑気払いとかいって、プロジェクトの老若男女数名と街へ繰り出した。
まぁ、今週は大変だったし、明日は休みだし、いざ行こう、と気炎を上げた割には、安っい居酒屋に行った。
ここまではよかった。
居酒屋を出たあと、なぜか、クレーンゲームやりたぁい、などと曰う女子のために、ゲーセンに行くハメになった。
駅前のゲーセンの、特にクレーンゲームゾーンは、それこそ若い女の子だらけで、そこに存在するだけでセクハラ呼ばわりされ、何ら反論できないであろう危機的状況。
もうオレ帰るから自分たちだけで遊べよ。
いたたまれなくなり懇願した。
ダメですよー、ひがしさんもやればいいじゃないですかぁ。
酔っ払ってるのか、ケラケラと人の気も知らず却下された。
じゃ、私、明日早いんでドロンしますわ。
仲間だと思ってたもう一人の男性陣に裏切られ、忍者のごとく、顔の前でドロンの手を組み、帰っちまった。
やればいいと言うが、やって万一ぬいぐるみなんか取れたりでもしたら、こんなもん抱えて歩けるわけなかろうに・・・。
いや、違う、女子にあげてヒーローになればいいのか。
俄然、やる気が出てきた。
こう見えても、学生の頃は、クレーンの竜と呼ばれたほど、実はクレーンゲームの達人だ。
キャッチできる気配がまるでない女子に変わり、クレーンの竜が満を持して颯爽と登場した。
どれ、やらせてみろ。
えー、ホントにできるんですかぁ。
ターゲットは、なんかよくわからんが、大きな丸いぬいぐるみ。
出口の真横に鎮座している。
クレーンの竜は、横から位置を確かめ、上から厚みを確かめ、正面からシミュレーションし、硬貨をシャリーンと投入、レバーを慣れた手つきで操作し始めた。
ウィン。
少しだけクレーンを前に出す。
ウィーン。
思うより右側にクレーンをずらす。
さぁ、あとは、ボタンを押してクレーンを下げるだけだ。
クレーンの竜の秘技をその目で見るがいい。
ポチッ。
あぁ、やっぱダメじゃあん。
ぬいぐるみを持ち上げることすらできず、クレーンはスカッと空振りして、涼しげな顔をして定位置に戻った。
(取れるわけなかろう、ファッファッファッ)
クレーンにバカにされた気になった。
いや、これ、取れないようになってんだよ。
簡単に取れたら、ゲーセン潰れるだろうが。
キャーッ、やったぁ、取れた取れたぁ。
隣のクレーンで、若い女の子が、色は違うが同じぬいぐるみをいとも簡単にゲットし、大きな声ではしゃいだ。
取れるじゃん。
ウチの女子たちの軽蔑そのものの冷めた恐ろしい目。
んじゃ、ドロンしますわ。
忍者のように、煙とともに消えるわけにもいかないが、突き刺す視線を振り切り、駅に向かって足早に逃げた。