恐怖のみそ汁
ねぇ、今日のみそ汁、なに?
今日、麩の、みそ汁。
きょう、ふの、みそ汁
きょうふのみそ汁。
恐怖のみそ汁。
あまりにも有名な古典的な話。
今晩、私は、本当に恐怖のみそ汁に遭遇した。
世にも恐ろしい話だ。
夜、仕事が終わった。
帰る途中、晩飯を食べるため、街外れにある赤ちょうちんの店に行った。
店は、年配のお母さんが一人でやっているカウンターだけの古く狭い店。
たまに行くと、その日ある献立で、夕飯をしつらえてくれる。
扉を開け店に入った。
誰もいない。ラジオの音だけが小さく流れる。
何かを煮込んでいるのか、鍋蓋が小刻みにカタカタと湯気を出しながら震えている。
得も知れぬ寒気が店の中を通り過ぎた。
そして、何ともいえないイヤな臭いがかすかに漂ってきた。
大丈夫なのか?
カウンターの向こうをのぞき込み、それでも誰もいないのを確認し、不審だとは思いつつも、椅子に座り、小声で「こんばんはー」と言ってみた。
応答はない。
と、急に店の扉がガラガラと開いた。
お母さんが入ってきた。
ビックリした。
あ~ら、ひがしくん、いらっしゃい。
誰もいないから心配したと言い、晩飯を食べたい事を告げ、何か食事を作ってもらうことにした。
ちょっと水買いに行ってたのよ、なくなっちゃてね。
晩御飯ね、いいわよ~。
からだにいいのがいいわよね~?
そう言うと、奥に消えた。
そして、しばらくするとお母さんがお膳を持って出てきて、私の前に置いた。
ご飯と、野菜炒め、たくあん、みそ汁。まさに一汁一菜。
もう遅いからねぇ。
軽くにしときなさいよ。
いただきます、と手を合わせ、みそ汁のお椀の蓋をとった。
するとそこには・・・、そこには・・・。
あぁ、書くのも恐ろしい。思い返すのも恐ろしい。なんということなんだ。こんなものがこの世に、いや宇宙にでさえ存在してもいいのか。
私は、あまりの恐ろしさに目をそむけ、おもむろに蓋を閉じた。
食欲は一気に失せ、さっきのイヤな臭いはこれだったのか、と気付いた。
みそ汁の中に、あのドロッとした黄色い塊が山盛りに盛られ、わずかに見える緑の皮が、みそ汁の色にまるでマッチしていない。
これこそ恐怖のみそ汁だ。
あら、ひがしくん、どうしたの?
真っ青な顔して。
美味しいのよ、そのみそ汁。
特製のカボチャのみそ汁よ。