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新宿静動

東京・新宿中央公園の一帯外、熊野神社がある。
緩やかな坂を上がると鳥居が見え、奥に拝殿が佇んでいる。
拝殿の背景には、高層ビルが建ち並び、それが余計拝殿の厳かさを際立たせている。
公園に響く子ども達の歓声も消え、蝉の鳴く声と木々の揺れる音だけが神社を包む。

神社にとっては季節外れ、しかも陽の照る昼間。
私の他に、たった一人、3・40代の女性が拝殿に向かい頭を垂れ、身じろぎ一つせず、手を合わせ何かを祈っていた。
あまりの真剣なオーラに、私のちっぽけな願いを祈るのも申し訳なく、静かに来た道を引き返した。

新宿駅西口。
小田急百貨店を取り壊し、今や大改造の真っ只中。
京王百貨店だけが、取り残されたようにただ一人、低い背のまま立っている。
取り壊された街の空は、新宿と思えぬほど青く広い。
工事中の狭い駅前の歩道を、人波を縫ってしばらく歩くと、思い出横丁にさしかかる。
晴れた暑さだからこそか、昼間から歩道に繰り出した店のテーブルは、ジョッキを傾けた客でいっぱいで、笑い声と電車が通過する轟音とが、ついさっきまでいた神社とはまるで別世界を思わせる。
上天から現世へ戻ってきた感もし、むしろ落ち着いた気分になった。

あまりの美味そうなオーラに、さすがに一人でジョッキを傾けるのも申し訳なく、残念ながら横丁を突っ切り、キャップを被り直し、小滝橋通りを北へ向かって歩いた。

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