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私の仕事


東京・新宿三丁目にある、世界堂本店。
美術用品の専門店であり、プロが使う用品を扱っている。
買うことも使うこともないであろう品揃えの中、仕事で使うものをここで調達している。
それは、クロッキーブックと美術用筆記用具だ。

仕事上、当然パソコンを持って使ってはいるが、顧客との実際の商談や会議や打ち合わせでは、クロッキーブックが主役になる。
パソコンはまず使わない。

それなりに人数が集まり、それなりに様々な意見が出てくると、人は思わぬ理解の仕方をする。
口で言っただけでは本当のことが伝わらないケースが多々ある。
Aと言ったはずなのにBだとばかり思われたり、Aと言うはずがどう聞いてもBにしか聞こえなかったり、様々な行き違いが日常茶飯事だ。

そこで、全員の理解を一致させるために、誰かが言う事をクロッキーブックに絵を描く。
しかも、あえて雑に大雑把にけれどわかり易く。
言ってしまえば、幼稚園児か小学校低学年並みの絵だ。
そこで改めて絵を見せながら、これまた極めて簡単に翻訳し、こういうことですよねと、説明し直す。
ここでようやく皆理解し、言った側と聞く側が一致する。
だいたいそこで、なぁんだそういうことか、だとか、初めからそう言えよ、だとか、いかに人は他人の真意を上手く理解できないのかが、よくわかる。
これをパワポでやると決してうまくいかない。
フリーハンドでラフに、が重要なのだ。

しかし、これを、普通の紙に普通のボールペンでやったのでは、ただの落書きになる。
そこで登場するのが、クロッキーブックとプロ仕様のペン。
道具が違うだけで、描かれるものは一緒にもかかわらず、あら不思議、すごく高尚なものに見えてくる。
それを使っている人間までも、何かすごくインテリジェンスっぽく見えてくる。
そうすると、いかにも胡散臭い説明までが、それっぽく聞こえてくる。

しまいには、最後、ただの落書きにもかかわらず、それをコピーして正式な資料として添付する顧客が多い。
とどめに、日付入れておきましょうか、とコピーする前に、サラサラとサイン入りの資料にして出来上がり。
まさか神棚に飾るような人はいないだろうが、そうやって、なんか凄い感を出すのが顧客をだますコツだ。

この、ほぼペテン師のような仕事が、私の仕事だ。
明日もまた、世界堂に行って、ペテン道具を調達することにしよう。








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