午後の水平線
品川駅から特急で約1時間、三浦半島金田湾に近い駅に降り立った。
海に近いとはいえ、その気配を全く感じない普通の駅前。
ここからさらにバスで約10分。
隧道を抜け、山を切り開いた一帯に集まる低層ビル群。
年に数回しか訪れない顧客先での打ち合わせが、時間をかけて来た割には、すぐに終わった。
だいぶ時間が余り、天気も良い。
駅への帰りのタクシー、駅に向かわず、海岸に行ってもらった。
ここでいいんですか?
海沿いの国道134号線、海が一望できる交差点。
どこ行くあてのない場所に、運転手は不思議そうに聞いてきた。
いいですよ。海見たいだけなんで。
迷いのない口調で言いながら、料金を支払った。
ドアが開くと、強めの風に乗り、潮の香りとウミネコの鳴く声が、いっせいに押し寄せてきた。
砂浜に続く階段を降り、それほど奥行きのない、すぐに波が打ち寄せる砂場に立った。
人はいない。
ただ、吹く風と波打つ音がこだまする。
広がる海に陽の光の橋がかかり、海の向こうの午後の水平線を遠くに眺め、しばらく立っていた。
橋の向こうの明日を想い、駅に向かって砂浜を歩き戻った。