涙のポニョ
🎵 ポーニョ ポーニョ ポニョ さかなの子
青い海からやってきた
ポーニョ ポーニョ ポニョ ふくらんだ
まんまるおなかの女の子
場違いな歌が流れていた。
荘厳な静けさの中に、人のすすり泣く声に混ざって。
今日の東京は、珍しく驟雨がない。
仕事の帰り道、地下鉄の駅に向かって、緑樹が連なる大通りを歩いていた。
緑樹の切れ目に、立派な山門が現れた。
さらに深い緑の樹々が覆う境内へと、歩を進めてみた。
参拝するだけのはずが、突然、未だかつてない場面に出くわし、思わず立ち止まってしまった。
みな、うつむき、肩を落とし、誰一人として正面を見る者はいない。
ただひとり、父親なのだろうか、位牌を手にした若い男性だけが、しっかりと前を向き、気丈に立っている。
その隣で、遺影が見えないほど泣き崩れている女性、おそらく母親なのだろう。
見るに耐えきれず、手を合わせ、山門に戻り向かって歩き出した。
歌が終わった。
「ネーネ、バイバーイッ」
たどたどしい大きな声がこだました。
振り向くと、小さな妹があふれる笑顔で手を振っていた。
柔らかい風が一陣、境内を駆け抜けた。