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直帰の理由
今日、同期の営業と顧客先に出た。珍しいことだった。
普段は、おっさん同士がそろって客先に行くことはなく、決まって老若ペアで行く。
そいつとは、TOEICの点数を競った仲だ。
「さみぃよなぁ~っ」
会社を出るなりヤツが叫ぶ。
「しかも、オマエと一緒だしな」
言ってやった。
「あぁ? お互い様だろ? そんなの」
「早く終わらせて、帰ろうぜ」
「まったくだ。直帰だ直帰」
そんなこと言いながら歩き、顧客先に向かった。
顧客先での打ち合わせが終わり、ヤツと交差点で信号待ちをしていた。
Excuse me?
不意に声をかけられた。知らんフリする間もなくスマホの地図を差し出され、どうやら日比谷公園に行きたいとのことだった。
「おいっ、オマエ教えてやれ」
ヤツがとっさに言ってきた。
「ふざけんなよ。オマエが教えろよ」
言い返した。
しかし、相手は地図を指差し、続けてきた。
Now here?
仕方ない。
地図を方角通りに向き変え説明した。
「いえす。なうひや。ごー、すとれーと。あんど、わん、つー、すりー、ふぉー、ふぁいぶ、くろすろーど。たーん、らいと。あばうと、ふぃふてぃーんみにっつ。おーけー?」
ボディランゲージとジャパニーズイングリッシュを駆使。
それでも解ったらしく、外人さんは納得したかのように歩いていってしまった。
「オマエ、ばっかじゃねぇ~。ナニ今の?」
ヤツがバカ笑いしながらウケていた。
「うるせぇ。教えもしないくせに文句言うな」
「あ~、ウケたウケた。言いふらしてやろ」
「伝わりゃいいんだ。伝わりゃ。だいたい、ここは日本だ。日本語で聞けよ。まったく」
ヤツとは、TOEICの点数、どっちが300点取れるか競った仲。ちなみに990点満点。
極めて低レベルな争い。
しかし、マークシートなだけに、300点以下を出すことの方も、実は難易度が高い。適当にマークしても、だいたい300点は上回るらしい。
「しかし、アレだな。オレたち、今入社しようとしたら入れねぇな」
ヤツが言った。
「確かにな。600点なんてムリだ」
入社するためには、今や600点以上が必須らしい。
「こうして、邪魔者扱いされていくワケだ」
ヤツが言った。
「だから一緒に外回り・・・ってワケか」
「やってらんねぇな」
「やっぱ、今日は直帰だ。直帰」
テキトーな理由で、今日は会社に戻らなかった。