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鬼雨

まだ雨が降る前、移動のため外に出た。
とにかく駅にさえ着いてしまえば、雨に濡れる心配はない。
ところが、ポツリポツリとすでに雨粒が落ち、遠くからゴロゴロと雷鳴が響いていた。

見上げると、独特の雲が空を覆っている。
手が届きそうな低い位置に、黒あるいは暗灰色の乱層雲が散り散りに広がり、隙間から、白いいつもの積雲が高い位置にフワリと浮かび、その背景に真っ青な空が広がっていた。
そして、半分の遠くは青々とした空、半分の遠くは黒々とした空。
これからゲリラ豪雨が来ます、と言わんばかりの天の表情だった。

そんな呑気に空を眺めていたら、閃光が一瞬煌めき、バリバリッと空気を切り裂く音が響いた。

危ない、危ない。
おヘソを取られないうち、さっさと地下に逃げよう。
なぜか、俵屋宗達の屏風を思い浮かべながら、足早に地下へと階段を駆け降りた。
「ゲリラ豪雨」ならぬ「鬼雨」がまもなくやってくる。

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