まるで凶な大吉
土曜日にもかかわらず、朝から働いた。
地下鉄浅草駅を降り、隅田川を見ながら吾妻橋を渡る。
背後のスカイツリーが霞むほど特徴的なデザインが輝くビル。
正確に言えば、働いたわけではなく、ただそこにいただけなのだが。
とはいえ、夕方には終わり、有志の野郎4人で浅草寺に行ってお参りをして、おみくじをひいた。
浅草寺は、けっこうシビアで、凶が出る確率が高い。
私もここでは幾度となく凶を引いた。
一人目、「凶」。マジかぁ。
二人目、「吉」。しょっぼ。
三人目、「凶」。だよなぁ、やっぱり。
ひがし、「大吉」。
大吉を見た瞬間、三人は「おぉ、すげぇ、ひがしさん、ついてる」
「だろ?日頃の行ないってもんだな」
久々に大吉を引いて、自分でもこれはついてる、こんな時こそ宝くじを買えば当たるはずだと、そう天にも昇る気分になった。
「じゃ、ついてる人のおごりってことで、軽く行きますか」
「あ、いいねぇ、厄祓いだね」
「んじゃ急いでホッピー通りだ」
天に昇っている間に、三人が勝手なことを言っている。
「おい、ふざけんな、なんでおごらなきゃならんのだ」
聞こえないフリなのかどうか、私の数歩先を、三人の足はホッピー通りに向けてスキップするかのように進んでいた。
土曜の浅草の飲み屋街は、まだ明るいうちでも人でいっぱいだ。
空いている店を見つけ、それでもぎゅうぎゅう詰めになりながら、男4人、肩を寄せ合い、暑苦しさ満点。
出てきたジョッキが、さっきまでいたビルのロゴ。
「休日呼び出しやがって、おつかれー」
思いっきりジョッキをぶつけ合った。
飲み食いしている間、財布にしまった大吉のおみくじをコッソリ広げ、改めてよく見ると、唯一、「金運 悪銭身につかず」。
なんでこれだけこうなんだよ。
待ち人とか転居とか失せ物とかばっかり良くてもしょうがないだろ。
実質「凶」のおみくじを、財布じゃなくポケットに押し込んだ。
ま、安くて美味くて、これで日頃の憂さが晴れてくれれば、渋沢さん一人、おごってやってもいいか。
「ごっつぁんでしたー」
人の気も知らず、無邪気な顔で帰りやがった。