銀杏並木にて
仕事で、東京メトロ・外苑前駅に行った。
「わぁー。きれいですねぇ。ひがしさん」
「そう、だな・・・」
「今度、彼氏と来よっと」
確か入社してまだ3年目だったか4年目だったかの女性。物怖じせず言う態度に、苦笑いをした。
神宮外苑は、いちょう並木が紅葉の真っ盛りだ。
夜雨から戻った淡い陽の光が、緑、黄、褐の銀杏の葉を透き通り、尖った風が木々をわずかに揺らす。遠くに見える絵画館が、斜めに落ちる葉で、ときおり隠れる。湿った、けれど柔らかい銀杏の葉々が、歩道いっぱいに幾重にも敷きつめられる。乾いた時のザクッとした感覚は、今日はない。
ここにだけ、油絵の世界が広がっている。
一度この並木道に連れて行きたいと、そう思ったまま時が経ち、ついに来れず終いだったことを憶い、一瞬目を伏せた。
陽の光が輝きを強め、しみこんだ水滴をきらめかせながら、葉がゆったりと落ちる。
黄檗色の銀杏に、V字の青空が鮮やかに描かれた。
「ちゃんと連れてってもらえよ」
「はいっ」
太陽に負けない眩しい笑顔で、彼女は元気に返事をした。