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夕暮れの小田急線

地下にある成城学園前駅を通過した快速急行は、地上に向けて、暗いトンネルの中をぐんぐん上昇する。

視界が急に広がった。
夕焼け空が車窓一面に広がった。
トンネルを抜けた快速急行は、空中のステージに上がった。
邪魔するものは何もない。高架の4車線化された線路の上を、次の停車駅、下北沢に向けて風を切る。

昔よく乗った小田急線ではありえない光景。
電車は、人や車と同じ地上を走り、幾つもの踏切を通過する。
車窓には、線路沿いにびっしり建ち並ぶ家々ばかりが映る。
空なんか見えなかった。

夕焼けは、ゆっくりとその姿を変え、二度と同じ姿になることはない。
ドアにもたれながら、窓の向こう遠くに広がる夕焼けを、ただ見ていた。横切るひこうき雲が、地平線の向こうに吸い込まれていった。

やがて、快速急行は下北沢に着く。
すっかり様変わりし、再開発という名の面白味のない人工的になった街並みを避け、昔ながらの雑然とした夕暮れの街並みに、私も吸い込まれていった。

街並みを歩き、少し早いが、古くからある、いわゆる町中華の店に入った。
年季の入った店内には、相変わらずラジオ番組の歌謡曲と、中華鍋とお玉がぶつかるリズム良い金属の乾いた音がミックスされ流れていた。
チャーハンを頼んで待っていると、聴き覚えのある歌が流れてきた。
女性が歌う「セプテンバーバレンタイン」。
そういえば昨日なのか、と腕時計の日付を見て思いつつ、一人チャーハンを食べながら、一度一緒に来た時を追想した。


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