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ありがとうの大切さ



昭和のカリスマ的経営者の代表と言えば、本田宗一郎と松下幸之助。
およそタイプの違う二人だが、従業員の忠誠心、さらには消費者への訴求力、ともに『神様』と言われるまでの圧倒的な存在感だった。

書店の「ビジネスコーナー」には、この二人と稲盛和夫の本が並び、たとえ現代の著名な経営者といえど、いまだその数は及ばない。

私は、タイプ的に本田宗一郎が好きだ。
自由奔放、リスクを恐れず、個性を尊重し、他人への思いやりが極めて深く、ユーモアも兼ね備えている。
決して松下幸之助が嫌いというわけではないが、タイプ的に合わないような気がする。

そんな松下幸之助だが、私が特に気に入っているのが、感謝の意を大事にする経営者であり、「ありがとう」の言葉を決して忘れなかったことである。
「ありがとう」は、言われた側にとってみたら、とても嬉しい言葉である。

気持ちをこめて、相手に一言かけることがどれだけ重要か、実践してみなはれ。
と、松下幸之助は社員に説き続けた。


ある若い夫婦が、列車に乗っていた。
トイレから席に戻る途中、同じ車両に松下幸之助が乗っているのに夫が気付いた。
松下幸之助のファンである彼は、一言でいいから会話をしたい。しかし、『神様』に対し失礼でもあり、きっかけもなかった。そこで思いついたのが、故郷から持ってきたミカンを差し上げてみよう、という事。
彼は、早速ミカンを持って、『神様』に差し上げた。そして、一言二言会話を交わし、興奮した面持ちで席に戻ってきた。

次の駅に着くころ、松下幸之助は降りる準備を始めた。そして、若い夫婦の席にやってくると、「先ほどは、とても美味しいミカンをちょうだいし、ありがとうございました。美味しく食べさせていただきました。本当にありがとうございました」と声をかけ、列車を降りた。
『神様』にお礼を言われた若い夫婦は、返す言葉も忘れ、ただ驚きでいるしかなかった。

そして、驚きはこれで終わらない。
列車がゆっくりと動き始める。何気なく夫が窓の外を見ると、『神様』は、夫婦の席の窓に向かってホームの上で頭を下げていた。そして、夫婦の姿が見えなくなるまで、決して頭を上げることはなかった。

この夫婦は、生涯松下製品だけを買い、その子供たちにも、松下製品の良さを伝えていった。


ただこれだけの事だが、これだけの事ができない現代社会。
誰もが他人への感謝と思いやりを忘れない社会であれば、もっと生きやすい世の中になるはず。

政治とは、あるべき生き様を率先垂範することでもあり、人の心をよく知り、皆の手本となる人であれ、昨夜選ばれた人たちにはそう願うのみであると思った。




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