男の友情
「ひがしさぁん、最近ヨーグルトばっか飲んで、どうしたんですかぁ?」
派遣で来てもらっている20代後半の女性が、資料を置きがてら私に聞いてきた。
それなりに悪玉コレステロールの数値を下げようと意識はしていて、気休め程度にヨーグルトを飲み始めた。「トリプルヨーグルト」などと称しているせいか、なんとなく数値が下がる気もする。それからクセになって飲み続けている。机の上に、空になったヨーグルトの小さなボトルが数本、そのまま残っている。
「いやさ、保健室が数値数値ってうるさいんだよ。ちゃんとやってるか?ばっかでさぁ。だから効くのかなぁ、と思って」
「そんなの飲んだって効くわけないじゃないですかぁ」
冷たくストレートな口調。
「いやいや、それが意外といいんだよ。ほら、オレ、ストレスとか抱えるじゃん?もともとバリケードな性格だし」
「それを言うなら、デリケート。それにそんなストレス抱えるワケないでしょ?」
サラリとさらに冷たく突き放す。
「まぁ、冗談はともかく、実は他にもっと凄い効果があるんだよ」
「何です?」
多少興味あり気。
「いやね、これ飲んでから、オレの周りに自然に人が集まるようになったんだよ」
「なにそれ?」
訝しげに聞く。
「ほら、人望って言うの?まぁ、元々オレって人望あるけどさ、みんな『ひがしさん、ひがしさん』って寄って来るんだよね」
「そんなわけないでしょ?」
何言ってんだ?って感じの強い口調。
「だからさ、ヨーグルト飲むとさ、人がね・・・・・・、よー来ると」
「・・・・・・」
まるで能面のような無表情。
たぶん理解していない。
「人が、よー、来ると。ヨー、クルト、・・・・・・ヨーグルト」
繰り返し言ってる自分が情けなくなってきた。
ようやく理解したのか、彼女は無言で立ち去り、たまたま向こうから来た隣の部の仲のいいヤツに、私を指差しこう言った。
「あそこにヘンなおじさんがいるんですよぉ」
ヤツはそれを聞くなり、「アイツか?わかった。俺がこらしめてやるからな」と言いながら私のところに来た。
「ひがし。何よ」
「まぁ聞けよ」
私はヤツにいきさつを話した。
「でだ、最後にだ、ヨーグルトなだけによー来ると、って言ったわけだ」
「オマエなぁ、バッカじゃねぇの」
ヤツは大笑いしながら、さらに続けた。
「しかし、それいいな、ナイスだわ。今日行く店のオネーチャンに言ってみるわ」
「だろ?」
「あぁ」
「ウケるぞ」
「楽しみだな」
遠くでヘンなおじさん達のやり取りを見ていた彼女は、とてつもなく冷たい軽蔑の眼差しを一閃し、消えていった。