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ジャケットを買う



仕事用のジャケットを買いに行った。

ウチの会社は、服装が自由だ。
スーツにネクタイという従来型の服装をする人はまずいない。
猛暑日が続いた夏場は、ほぼチノパンにポロシャツあるいは半袖シャツの出で立ち。
顧客もその辺はわかってくれているので、わざわざ顧客用の服装に切り替えることもない。
冗談抜きで、ネクタイの結び方を忘れそうだ。

あれだけ暑かった夏も去り、さすがにいつまでも半袖というわけにもいかなくなる。
それに顧客の理解も夏場のことだけであり、いよいよ上着だけは必要となる。
俗に言うジャケパン姿になるわけだ。
そこで、毎年最低1着はジャケットを買い、買う毎に数年前のを捨てる。
これを繰り返している。

ところが、仕事用のジャケットを買うのは意外と難しい。
シャツなど他のものは、極端な話、どうせ消耗品、ユニクロや無印でもかまわない。
ただジャケットだけは、一応それなりじゃないと格好がつかない。
だからといって、デパートでブランドものを買うには所詮仕事用、もったいない。
それなりのもので極端に高くもなく安過ぎもせず、というのを探すわけだ。

けれど、紳士服のナントカじゃどうもオシャレじゃないし、案の定、デパートは物はいいが高過ぎだし、歩き周った挙げ句、行き着いたのがパルコ。
しかし、明らかに年齢層が違い、たぶん、20代から30代前半ばかりの客が店内にいる。
とはいえ、お構いなしに見て回った。

いいブルーのジャケットがあった。
見た目もいい、値段も手頃。
ただ、左胸のフラワーホールに花柄のピンバッジが付属している。
ま、外しゃいいだろ、と店員さんを呼んで試着することにした。

「このジャケットなんだけど、そもそも、年齢に合ってないとか、オッサン着るなよとか、ある?」
いきなり着るのもなんだから、聞いてみた。

「んなことナイっすよ。ダイジョウブっすよ」
若い店員のなんだかいい加減な返事。

「このピンバッジ、着る時取れる?取っていい?」
「取れるっすけど、付けたままの方がカッコいいっすよ」
「いや、仕事で使うからさ、さすがに外さないとまずいんだよ」
「仕事でもいいじゃないっすか。オシャレっすよ。ちょっと着てみて鏡見てくださいよ」

言われるがまま袖を通し鏡を見た。
ピンバッジがどうもしっくりこない。
外してみた。
すると、意外に普通過ぎて、ピンバッジがあった方が良く見える。
考えてみたら、社章とか何かのロゴとか、付けている人をよく見かける。
別にあってもいいのか、そう思った。

「バッジ、あった方がカッコいいっしょ?」
黙って迷ってる私に聞いてきた。
「確かにね。あとの問題はオッさんが着ていいのか、なんだが」
「全然オッさんじゃないっすよ。バッチリ似合うっすよ」
「そうかねぇ・・・」
「オレ、こう見えてウソつかないっすよ。似合わない人には似合わないって言うんで」
「上手いねぇ」
笑いながら言った。

「んじゃ、コレでいいっすか?」
「あぁ、これにするよ」
勢いに押され、彼の口調はともかく一生懸命なところが気に入り、ブルーのジャケットを買った。

家に帰り、もう一度着てみた。
冷静になって見てみると、お花の可愛いピンバッジ。
やっぱオッさんは着ちゃダメなんじゃないか?
一度会社に着ていき、ウチの女子達の、おそらく冷たい反応を確かめてから外すとしよう。


ちなみに、皆様どないでしょ?




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