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ジャケットを買う ─ 続編 ─


2024/09/29の記事「ジャケットを買う」の続きです。


(誰も何も気付かんのか・・・)
午前中、何事もなく時が過ぎた。


午後一の会議が終わり、会議室には同世代の女性と私だけが残り、互いにPCに向かい、それぞれの作業をやっていた。

「こほん」
私は軽く咳払いをした。彼女は相変わらずキーボードを叩いている。
「ごほん、ごほんっ」
「なに?また風邪ひいたの?」
ようやく気づいた。
「いや、そうじゃなくてさ、ほら、今日さ、ジャケット着てるじゃん?」
「それで?」
「・・・なんか気付かないかと思ってさ」
「なに?」
あー、メンドくさ。

「ほれ、ここにバッジ付いてるだろ?なんか思わんか?」
彼女は私に近づきジャケットのピンバッジを見つめた。
「なにこれ?え?ちょっと待って。まさか、かわいいの付けてるとか言って欲しいわけ?」
このヤロウ。どストレート過ぎじゃねぇか。

「たまにゃ言ってくれたっていいだろうが」
「ハハハッ、ウケるぅ。私だからいいけどさ、そんなのそっちの部の女子に言わない方いいわよ」
「なんでだよ、言ったっていいじゃん」
「またバカなオッさんが自慢してる、なんて答えればいいのよって思われるのがオチだからやめとき」
「別に自慢するわけじゃないだろ。こういうの着けてどうか聞くだけだろ」
「それがダメなんだってば。よっぽどひがしくんに気があるなら別だけど、その他の人はぜんっっぜん気にしないから。嫌われたくなかったらとにかくやめとき。そういうのは自分から言わないの」
そう言うと彼女はまたキーボードを叩き始めた。

言われてみれば悔しいが一理ある。
せっかく店員のあんちゃんが「カッコいいすっよ」と言ってくれたのに。
ウソでもいいから「ひがしくん、オッシャレ〜」などと言う気配を彼女は微塵も見せず、終いには「むかつくぅっこのメール、また丸投げかよあのハゲちゃびん」とキーボードをバシンっと叩き、紙コップのお茶を一気にゴクリと飲み干した。

聞く相手を間違ったか。




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