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The better landing


移動性の高気圧が東京を覆い、秋空から強めの直射日光が降り注ぐ朝のバス停。
休日の倉庫街。
バス停は、何もない広い歩道に存在感際立たせ、丸い顔をしてポツンと立っていた。
片側6車線、計12車線の広い幹線道路には、走る車は少なく、まして歩く人もいない。窓のない巨大な倉庫がひしめき建ち並ぶ向こうに、海につながる橋が、青空に映えて白く小さく見えた。時が止まったかのような静けさ。
バスが来るまでのあと5分の時間が、普段の忙しさに浸かっている私には、とてつもなく長く感じた。

バスの姿が、広い道路の向こう側から揺らめきながら遠くに見えてきた。私の乗るバスだ。1時間に1本しか来ないバス。このバスを逃すと、1時間待たなければならない。電車の時間よりも、バスの時間をよく確認してここまで来た。

バスが停留所に止まり、自動ドアが開く。ステップに足をかけ、料金を支払い、車内を見渡す。車内には誰も乗っていない。乗客は私一人だけだった。全席空席だと、むしろ座る場所を選ぶのに困惑する。とは言え、出口に近い一人用の座席に座った。

次のバス停。誰もいない。通過。
さらに次のバス停。誰もいない。通過。
バスは私一人を乗せて、小刻みにバス停を通過しながら、目的地に向かい淡々と進んで行く。
そして次のバス停。予定にないバス停を通過した。
違和感を抱いた私は、車内に掲げてある路線図を見た。今しがた通過したバス停の名前を見つける。目的のルートから外れたバス停だ。どうやら間違ったバスに乗ってしまったらしい。

仕方がない・・・。
引き返すのも面倒だ。
このまま乗って、適当な所で降りよう。
特に慌てることもなく、そう思いながら、バスが淡々と走るように私も淡々と乗り続け、窓の景色を眺めていた。

しばらくすると、「公園」が名付くバス停が車内放送で流れた。どんな所かも分からないまま『とまります』ボタンを押し、バスが止まると、私はとりあえず降り立った。

海沿いのその公園は、縦に細長く、海に沿って遊歩道があるだけだった。時折点在するベンチに座り、対岸の島からひっきりなしに離陸する飛行機を眺めていた。
離陸の合間に訪れる静寂の間、やや強い潮風の、木々を雑草を揺らす吹き抜けていく音が耳に心地よかった。

何も予定通りでなくてもよい。
思いがけない良い結果であれば、それはそれで一つの着地点として、着陸するのもまた良いものだ。
また一機、ジェット音を轟かせながら頭の上を通り過ぎた。
首を90度後ろに曲げ、白い機体を見送った。
見上げた空は眩しかった。


公園から見える羽田空港
飛び立つ飛行機
真上を通る飛行機
公園から見る都内


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