日曜夜の罰ゲーム
なぜ、わざわざ日曜の夜なのか。
本人曰く、今日カミさんいねぇからよぉ、お前ら呼んで羽でも伸ばさねぇとやってらんねぇんだ。
去年の暮に退職して、悠々自適なのかどうかは知らないが、少し前の上司が私を含め当時の部下たちを呼びつけ、飲みに監禁された。
その上司は、在職中、どう見てもその筋の人ばりに、オールバックの髪型に色眼鏡を着け、紫やら銀やら派手なダブルのスーツを着て、とても大企業の社員には見えず、おまけに声がダミ声で、菅原文太を崇拝していたオッさんだった。
おい、ひがしよぉ、テメェなにこんなくっだらねぇ資料作りやがって、なにやっとんじゃあっ。
おいっ、◯◯部のブチョー、今すぐ呼べや。ったくっざけやがって、ブッころしてやる。
大きなダミ声のこんな感じが日常で、今ならパワハラなのだろうが、その時は、映画の見過ぎだろあのオッさん、といつものことなので誰も気に留めていなかった。
そして今日、本人、家が近いからと、もんじゃ焼きで有名な月島で、それこそ勝手にもんじゃ焼き屋を予約し、明日仕事なのに呼び出され、元部下4名、体よく監禁された。
「お疲れーっす」
「おうよ」
昔のまんまの挨拶で、飲みが始まった。
昔の自慢話をし、辞めた会社の悪口を言い、カミさんがうるさくて仕方ないと、一方的にまくし立て続けたオッさん。
我々4人は、また始まったとばかりに、枝豆やらおしんこやらをつまみながら適当に相槌を打ち、ちびちびと飲み、右から左へ聞き流していた。
なんの罰ゲームだ?
隣に座っていた奴が耳元でささやいた。
知らんわ。
口の形だけで答えた。
「おいっ、ひがしっ!!」
聞こえたのかと思ってビックリした。
「もんじゃ頼めっ」
「うぃっす」
あぶねーあぶねー。
しばらくして、もんじゃ焼きが運ばれてきた。
そういえば久しぶりに食べる気がする。
とりあえず混ぜて土手作って流し込みゃいいんだよな、と思っていたら、オッさんが「おい、オレが作るんだよっ、よこせ」と言ってきた。
マジか?と思うものの逆らうわけにもいかず、もんじゃ焼きを手渡した。
ところが、意外にも手際よく作り始める。
4人とも、ウソ?という目でオッさんが作るのを見ていた。
もんじゃ焼きが出来上がった。
「どんなもんじゃぁっ!!」
菅原文太バリのダミ声で、多分、本人シャレたつもり全くなく、小さなヘラを両手に持ちガッツポーズした。
帰りてぇ・・・。
きっと誰もが思ったはず。