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医療に市場原理は働く
津川先生により、医療サービスに市場原理が通用しない理由がまとめられています。↓
https://note.com/yusuke_tsugawa/n/n1d92b173dd36
非常にわかりやすくまとめていただいていますのでご一読ください。
その中では以下のものが代表的な理由として挙げられています。
① 不完全で非対称な情報(Imperfect and asymmetric information)
②不完全な競争市場(Non-competitive market)
③多くの病気は緊急性が高く、予測不能である
④医療保険による市場のゆがみ(Market distortion due to health insurance)
⑤外部効果(Externalities)
これらには多くの疑問があります以下で一つずつ検証してみたいと思います。
が、結論を先に書くのがわかりやすい、というアメリカ式論法に則り
先に私の提案をまとめておくと
・医師増員、医師権限の他職種への移譲による医療資源の供給増加
・救急、急性期、感染症と、他の医療を分けた制度づくり
・医療費自己負担の増加
です。
これを頭の片隅に置いていただきつつ、一つずつ検証してみましょう。
① 不完全で非対称な情報
たしかに医師という医師免許を持った者と患者の間で医療知識について情報格差があるのは確かでしょう。しかし、そんなものはいくらでもあります。
例に出ていたテレビを買うのでも、性能や耐久性、コスパなどある程度詳しい人の方が上手な買い物ができます。騙されることだってあるかもしれません。
いや、他の業種にも情報の非対称性はあるが、医療は致命的なものだから情報の非対称性が無視できない、という反論があるかもしれませんが
水回りやトイレのトラブルなど、翌日まで待ってから受診できるような症状よりもはるかに致命的です。インフラ関連は全て致命的ですがそれでもトイレのトラブル8000円という市場原理が働いた価格になっています。
救急はどうなんだ、と言われたら確かにそうかもしれません。一刻を争う事態では価格の交渉はできないかもしれない。そういう場合のみは、ある程度価格を抑えた定額に国が決めておく、というのは有効でしょう。
しかし、最近、救急車が有料化された三重県などでは救急要請は減りましたが、健康に問題はなさそうです。つまり、救急車を呼ぶような事態であっても価格に応じた需要変化があり大きな問題が生じないということは、ある程度の市場原理は働きうる、ということを示しています。
それを「情報の非対称性」という一言で否定するのは、患者の自己判断能力を過小評価した偏りのある議論と言わざるをえません。
また、医学を学ぶ名目上唯一の機関である医学部(でなければ医師国家試験受験に医学部卒業を義務付ける理由がありません)の定員を過剰に絞っていることからも、この情報の非対称性は人為的に作られている、とも言えます。それらも含めて改善が必要です。
②不完全な競争市場
これはまさに市場の失敗ですが、単に医療に高過ぎる参入障壁を設けてしまったため供給が不足しているということです。だから寡占状態になり言い値で買わざるをえなくなるわけです。寡占が悪いわけですから純粋に数が足りないのです。参入規制を緩和して医師や病院を増やすのが正攻法の解決策です。
③多くの病気は緊急性が高く、予測不能である
これも①と同じですが、現在行われている医療のかなりの部分が緊急性の低い医療です。生活習慣病などの慢性的な内科疾患に判断ができず予測不能な部分はとても小さいです。これらに関しては情報の非対称性の影響はとても小さく、患者も適切な判断が可能です。
これらを切り分けず全てを「医療」とひとまとめの議論にするのはあまりに偏りがあります。
インフラとしての医療を設計するのであれば一部の救急、急性期疾患に絞った制度づくりが必要です。
④医療保険による市場のゆがみ
これは本来の保険という性質上仕方のないものですし、その歪みを自ら望んで作るために加入し、その分確率的に総額としては損をするとしてもリスクコントロールをするのが保険です。これが民間の保険であれば収支や保険料の額も含めて市場原理が働きます。自動車保険の任意保険などはまさにその好例でしょう。
問題は「公的な」保険です。日本の公的保険は保険としては実質的に破綻しています。医療費を保険料で全く賄えず税金を投入しているわけですから。しかもそれが野放図に支出が広がっていること、すなわち自己負担が安すぎることによる過剰な医療需要(モラルハザード)こそが現在の社会保障制度破綻の根幹でしょう。
もちろん、①③にあるように、救急、急性期はインフラとしての整備が必要なので全てを市場原理に必要はありませんが、それ以外の領域でモラルハザードを是正するには、自己負担を適正な割合に上げる必要があります。
⑤外部効果
たしかに医療にはその人だけでなく、他者にも影響を及ぼすものがあります。ここにもあるように代表的なものが感染症でしょう。
まさにコロナ禍がそのわかりやすい例だったわけです。これも程度問題で、新型コロナ感染症ですら行動制限の是非が問われたわけです。
それ以外の医療に関して、外部効果を理由に制限をかけるような疾患はほとんどないでしょう。外部効果を理由に医療全体の市場原理を否定するのは、あまりに暴論と言えます。
以上を踏まえた提案としては上記の通り
・医師増員、医師権限の他職種への移譲による医療資源の供給増加
・救急、急性期、感染症と、他の医療を分けた制度づくり
・医療費自己負担の増加
が正攻法といえます。
これにより市場原理を医療に大幅に活用することが可能になります。
特に慢性期疾患、外来診療についてはほとんど市場原理で解決できる問題です。
これだけが唯一の解とは言いませんが、これらを検討せずに、
医療に市場原理は通用しない
とまとめて諦めるのは思考停止の議論と言わざるをえません。
その背景には既得権益を守りたい医師をはじめとする医療関係者の政治的抵抗があると思いますが、今回はその議論はフリードマンに譲り、省かせていただきたいと思います。