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学士会スーパープレゼンテーション(2024/11/03 @学士会館) スライド紹介

2024年11月3日に学士会館で行われた
学士会スーパープレゼンテーション
というイベントに登壇させていただきました。
その内容を学士会の許可を得てこちらで紹介させていただきます。

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平成18年京都大学医学部卒業の東徹と申します。よろしくお願いします。今回は「社会保障制度改革の具体案」というちょっと大上段に構えた話をさせていただきます。

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私は普段は精神科医をしています。これまで2冊本を出版してます。少し紹介させてください。一冊目は「精神科病院で人生を終えるということ」という本で2017年に出版しました。精神科病院に長期入院して亡くなった担当患者さんの話を匿名化してまとめた本です。
この中で、精神医療の差別や闇にも触れています。
私が精神科4年目から5年目の若手の頃に連載していた本で、若く純粋な気持ちで書けたな、と今読み返すと思います。ご興味あれば読んでみてください。

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もう一冊が「誰でもわかる精神医学入門」という本で2023年、去年に出版した本です。これはまさに精神医学入門の本ですが、かなり専門的な話にまで踏み込んだ一応、自信作になっております。先日、中学生から手紙をもらいまして「面白かった」とのことでしたので、本当に誰でもわかると思います。よかったら読んでみてください。

という宣伝をしているわけではなく、普段は普通の精神科医をしています、ということです。普通の精神科医がどういうものか、までお話しする時間はありませんが、そのようなことをしています。
それと並行していくつか活動をしています。

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一つ目が認知症啓発活動です。おれんじ畑という名前の任意団体を立ち上げています。「おれんじ」は厚労省が決めた認知症のシンボルカラー、「畑」は人材育成の意味を込めています。2016年に立ち上げました。
認知症はいわゆる「治る」疾患ではないんですね。
徐々に認知機能が落ちていくのは現代の医学では残念ながら止められません。
しかし、生活の支援をする、というのが認知症の医療介護の役割となっています。

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その生活介護をする人材の育成、というのがとても大事なんです。
そこで一般の人向けに、認知症の知識を広め。関わり方を実践的に、その場で実際にやってもらって学んでいく、という活動をしています。
先ほど認知症は「治らない」と言いましたが、関わり方によって生活の困りごとが解消できたらそれは治った、と言って良いのではないかと思います。
これが認知症医療、介護、ケアの本質となっているわけです。

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でなぜ「一般向け」にやっているかということですが
医師、看護師などの専門職も介護には関わるわけですが、私の見る限りではどうもプライドが邪魔をして上手く出来ていないように見えることが多々あります。
かえって、一般の人の方が上手くできることも多いんですね。
社会全体で認知症の人が快適に暮らせるようにすることは結局誰にとっても得なことです。
なので一般の人に広めていくのが一番良いと思ってやっています。

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実際の団地住民の方に認知症研修をしたところその団地で認知症のケア力がアップしたということも新聞記事にしてもらったりしました。

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最近では商業施設でも認知症の方が増えていて、認知症サポーター養成講座という厚労省主催の研修会を開催しているんですが、私たちが講師として講座をさせてもらったりしています。イオンモールや高島屋でもさせてもらいました。
このような活動をしています。

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他にも活動をしていまして、それが引きこもり支援になります。
と言っても、引きこもりを外に出す支援ではなく、引きこもりのまま元気に過ごせるようにしようという支援です。
区役所に精神科相談業務というのがあって私がやらせてもらっているのですが、ここには病院に行くほどではないが相談をしたい、という方々が来られます。
そこに結構多いのが、引きこもり本人、ではなく、その親や兄弟が相談に来ることが多いんです。
そして、引きこもっているのは悪いことで、社会に出さなければいけない、という相談なんですが、そういう固定観念に違和感を持っていました。
というのも、引きこもりは精神科的にはとても健康なんですね。
だって、入院する必要はないし、通院も必要ない。
自分のことは自分でできる判断能力は持っているわけです。
単に、自分の意思で引きこもっているだけ、です。
しかも潜在能力は結構持っているんです。
しかし、引きこもっていることに忸怩たる思いは持っていて、それを一番感じているのが、誰よりも当の本人なんです。

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それがなぜわかるか、というと実は私も20歳の頃1年間引きこもりだった、元当事者だからなんですね。
引きこもり、というのは社会から身を守るためにやっているわけで
出てきた方が良い、といくら言っても無意味です。
それは自分が一番、出ないといけないと思っているからです。
でも出られない、出たくない、というのが引きこもりです。
では、どうしたら良いか、と考えたのが

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「引きこもり文学大賞」の創設でした。
引きこもっているからこそ文学が書ける、価値観の逆転を図りました。
引きこもりの人は大体内省的ですが、この性質は文学に親和性が高いと思います。
例えば、徒然草は兼好法師が引きこもりになってから書いたものですし「隠者文学」というジャンルにさえなっています。
で、文豪は温泉宿に引きこもって書いてますよね。
というように文学の本流はむしろ「引きこもり」なんじゃないか、というコンセプトです。

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そしてクラウドファンディングを立ち上げて支援を集めました。出資者の人たちが、引きこもりの人たちが書いた作品を読んで、良いと思うものに投票して賞金を渡す、という試みです。
引きこもりがむしろ価値あるものとして転換できることを図りました。
引きこもりの潜在能力が逆に社会に価値を生み出す、ということを示したかったわけです。
で、実際に第一回の賞金は15万円でした。これはなかなかの高額ですよね。つまりそれだけの価値が生み出せたということを示せたと思います。

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次の年には引きこもり絵画大賞も設立しました。これも好評で新聞に取り上げていただいたりしました。

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その後には音楽大賞も加えて「引きこもり文化祭」というものも立ち上げました。作品集も出版しました。そして、今まさに第2回引きこもり文化祭が開催中ですのでご興味ある方は一度ご覧ください。

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まだいろいろやっているんですが、こちらは薬剤師に処方権をという署名活動です。2023年、去年に立ち上げました。
何の薬を出すかという「処方」判断は医師が行い、「調剤」実際に薬を用意するのが薬剤師、というのが医薬分業です。これ自体は悪くないのですが、日本の医療制度では医師と薬剤師にとても大きな権限の差があって、これが上下関係のようになってしまっています。
それによって非効率な作業が生じたり、医療費が無駄にかかったりと、現場レベルで困る問題が多数あるわけです。

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なぜこのような署名を立ち上げたか、という動機ですが
現場で薬剤師の能力が十分に発揮できていない、という実感があるからなんですね。
例えば、精神科の専門薬剤師というのがいるわけですが、この人たちは内科や外科の医師よりもはるかに精神科の薬の知識もあるし実践経験もあります。
しかし、処方する権限がないため、その能力が十分には発揮できていない
と思うことがよくあるわけです。
その能力を患者と社会のために役立ててほしい、というのが動機でした。

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しかし、何の薬を出すかの「判断」は医師にしかできない、と思われがちでそういう反論もあるんですが。実際、イギリス、カナダを筆頭に海外では、患者の利便性、つまり病院に行かなくても薬がもらえることなどですが、それと医療費削減の目的で薬剤師の処方権が認められている国はたくさんあるんですね。
つまり、そこまで専門的ではない処方であれば薬剤師にも十分可能、ということです。
その証拠として

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カナダで行われた実証研究があります。高血圧の薬を処方するんですが、薬剤師が処方した方が、医師が処方するよりも、血圧がより低下した、という結果が論文になっています。

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血圧が下がると合併症が予防できるんですが、それによって医療費が削減できる、という試算も論文になっています。

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さらに、その仕組みを日本にも導入した場合には、なんと20年間で25兆円の医療費削減効果がある、という試算も論文になっています。
このように薬剤師に処方権があっても良いのではないか、という活動をしています。

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これで最後ですが、もう一つ活動をしています。それが次世代運動です。
これは2024年、今年に発足した団体です。
社会保障費は年間140兆円規模になっており、高齢化が進むとさらに増加するのは明らかです。
その社会保障費を払っているのは現役世代であり、さらに将来的には子供世代、次世代が払うことになります。
それに対する危機感を持って活動している団体が次世代運動です。

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政治運動だとか署名活動、というと身構える方もおられるかもしれませんが、これは私にとっては医療の現場レベルで困っているからやっている活動になります。
それがモラルハザードです。
国民皆保険が日本にはありますが、これはアメリカのような極端な格差を防ぐためには、これ自体は合理的な制度だと思います。
しかし、自己負担割合は、現役世代だと3割になります。
これは窓口で払うのが3割、残り7割は保険料から支払われる、つまり7割引ということです。

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自己負担が安くなると過剰に医療を使ってしまい需要が増えることをモラルハザードと言います。
これは3割負担でもあるわけですが1割負担、つまり9割引になるとモラルハザードは加速します。
それが現実的に起きているのが後期高齢者の医療費です。
後期高齢者はなぜか1割負担になっています。なので、過剰な医療業部と医療費が積み重なってしまっています。

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というと、1割から3割に負担を上げてしまうと、医療費を払えなくなって健康を害するのではないか、と言われる方も多いのですが、日本の研究で健康に問題がないことは示されています。
これは少し前なので70歳が自己負担の境目になっていますが、上の図にあるように3割負担が1割負担になることで受診回数は増えるのですが、下の図にあるように死亡率は変わりません。
つまり、余分な受診が増えるだけで健康には寄与していないということです。
高齢者も自己負担があっても本当に受診が必要なら自分で判断できるということです。
そして、1割負担を3割負担にすることで、医療費公的負担が毎年5兆円も軽減するという試算もあります。

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もう一つ、高額療法費制度の問題もあります。
これは自己負担の上限が決まっている制度ですが、これもなぜか高齢者は現役世代よりも低くなっています。
そこで例えば、認知症の人が入院したとします。治療して退院できるようになりました。
しかし老人ホームに入るより入院の方が自己負担が安くなってしまうんです。
それで家族が入院継続を希望したりします。
これもモラルハザードです。
日本の入院病床は世界的に異常に多いことも以前から指摘されていますが、その原因の一つとしてこういう問題もあります。

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こういうことが現場で起こっていると「これは一体何をしているんだろう」無駄じゃないのか、と思われるような医療が多数あるんですね。
それが医療職のモチベーションを下げている現状があります。
その現場の声を届ける、という使命感も感じながらやっています。

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ここまで私のやっていることを紹介しましたが、そこには共通の課題がありました。それは「分断を無くす」ということでした。
精神科の本に関しては、精神疾患の人と一般の人の分断を無くしたい
認知症に関しては、専門家と非専門家の分断を無くしたい
引きこもりに関しては、支援する側、される側という分断を無くしたい
薬剤師の処方権に関しては、医師と薬剤師の権限格差の分断を無くしたい
次世代運動に関しては。現役世代と高齢者の年齢差別による分断を無くしたい
というものでした。
その目的としては、資格、免許、イメージなどによる分断があると
その人の本来の能力が発揮できないからです。
全員が本来の能力を発揮できる社会が必要ではないか、と思います。

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そこで私が今回提案したいのが、こちら大規模福祉アミューズメント複合施設です。
社会保障制度は費用が膨らみすぎて継続困難になっています。
その中で、高齢者の方は自宅で死にたい、と希望される人も多くおられるのですが、流石に全員は無理です。
何せ3000万人以上いる高齢者をもう1学年70万人を切る若者で支えるのは不可能です。
介護施設の大規模化による効率化は必須だと思います。

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大規模化によるスケールメリットがあります。最近では介護施設の集団離職のニュースなどもありますが、職員900人いれば300人も一気に退職、ということは起こりにくくなります。

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問題は施設には姥捨山のようなイメージがついてしまっていることです。これによって高齢者本人も忌避感が生まれますし、家族も施設に入れる罪悪感が生まれます。
これを払拭して入りたいと思う施設にする必要があります。

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その点、この大規模施設であれば、病院併設しているので何かあっても救急車を呼ぶ必要がありません。宿泊施設があれば遠くからでも会いに来れます。温泉があるので一緒に入れます。ショッピングモールで一緒に買い物も出来ます。屋内スポーツ施設で孫世代も遊べますし、中央の広場でサッカーやコンサートをすることも出来ます。

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実はこれは実体験があるんです。私の祖父母が私が子供の頃、温泉施設併設の老人ホームに入っていたことがありました。
その時は私は行くのが楽しみだんだんですね。温泉なので卓球やゲームセンターがあり、そこで遊べて楽しかったです。

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実現には法的な整備などそう簡単ではないかもしれません。
しかしこれからの超高齢化社会では分断を無くして誰もが能力を発揮し
全てが繋がった仕組みが必要ではないでしょうか。
分断を無くして全て繋がる大団円に
こういう施設が、というよりもこういう考え方でやっていく必要があると思います。
というのが私の提案でした。
ご清聴ありがとうございました。

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