透明
都会を歩くひとたちはみんな透明だ。情報の洪水でわたしたちの色温度は希釈され、水びたしの街には水面に反射された空と高層ビルだけが取り残された絵画のように映っている。
コンクリートで舗装された歩道の合間で、さみしさを埋めるために咲かされた紫陽花は、すこし汗ばむような初夏の空気に囚われている。あのちいさな花々を囲む川辺の散歩道の上で、子どもたちが川に向かって石を投げているのを見た。
通りすがりの透明人間は、石がぽちゃんと川に落ちる音が聞こえないことに気づいてふり返る。そのとき音にも透明な音があるのだと、識る。
子どもたちのちいさな掌に石は握られていなかった。ああ、あの子たちは透明な石を投げているのだと思った。ここには石すら落ちていないのだと悲観することもせず、想像の翼で石を空に羽ばたかせている。
子どもたちが声をあげながら走っていったあと、わたしにもすこしだけ色が戻った気がした。それが何色なのかは誰かが決めることだ、わたしはわたしの無色だけを見つめている。
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