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恋文

 拙い口先がもっと綺麗な言葉だけを選んで紡ぐことができたなら、貴方はその手を腰ではなく私の頭に添えてくれただろうか。うつくしい手で淫らな部品に触れてなどほしくはなかったけれど、貴方を繋ぎとめるだけの色は、私の白い指のあいだの何処からも零れてはこない。
 貴方が探しているものはずっと知っていたのにと言えば、幼子を愛でるように憐れんでくれる?
 棄て猫の行く末を憂うより、ほんのすこしは暖かかった筈の貴方の眸。いつからか体温を失って、乾いた砂漠の砂にも似た熱を帯び始めた。
 貴方は、私を未だ子供と思うでしょう。けれど水面を波立てる僅かばかりの風に乗って、貴方がふわりと旅立ってしまうことぐらいは知っている。数多の砂の中から、失くしたひとつを掬い上げることが出来ないことも。
 無色透明な砂漠の羊水で溺れた魚は、ひらいた口から泥水が零れ落ちないよう必死で息をする。飼い慣らし慣らされる儘のふたりならば、いずれなまぬるい泥濘の中で静かに果ててしまうだろう。
 骸の欠片も遺さずくずれかけの優しさに全部全部落としこんで、長い時間を掛けてゆっくりと消えていってしまえたなら、それもいい。
 氷砂糖の幻想をひとひら融かし入れたとて、貴方をすっぽりと包む膜にささやかな波紋を描くことすら叶わぬ指なら、きっと自ら腐り落ちねば花のひとつ芽吹かせることもままならないでしょう。

(2012/11/12 )

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