失われた時間
遡ることができるなら変えたいのは私の未来なんかじゃなくて、ただ貴方に会いに行きたいな。これからを見つめつづけることならできるけれど、これまでは知ることしかできないし、貴方のすべてが記された図書館には幾重にも鉄条網が張られていて、永遠に通行許可が下りない。
貴方の心を覆っている棘は硝子のように透き通って綺麗だけれど、其処にはあまりに明確な拒絶と断絶が立ちふさがって、私達の目を遠ざけようとする。頑強な城壁にはなにものも近寄れず、触れることができない花が咲く、いつまでも散らないことは美しいけれど残酷だと思いながら、気づけば私達は其処へ近づこうとしていた事を忘れている。
いつも高い塔の上から私を見下ろしているあのひと、あのひとはなぜあんなに寂しそうな目をするのだろうと思いながら、いつしか忘れてゆく。届かなかったということを私達は身勝手に拒絶する。貴方を笑わせる方法がどうしてもわからなくてつらいから。
そうなる前に城を燃やせば幸せにすることができましたか。そう言ってもきっとあの乾いた目で笑われるのだろう。すべてを慈しむ貴方の本当は時間の海に流されて、もう還る方法を忘れている。
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