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デ・キリコ展に集う人々

 上野のデ・キリコ展に行ってきた。私が子どものころは「デ」の無いただの「キリコ」だったのが、2024年は「デ」が付くらしい。

 馬鹿はさておき、科博の大昆虫展になだれこむファミリー層を尻目に都美術館は大人の空間をかもし出していた。スモックを着て長い髪を無造作に留めた女性、日焼けしていない女子高生、黒縁眼鏡にマスクのやたら遠くで見る若者、これ見よがしにイタリア語をあやつるおそらくイタリア人、地味だがいいものを着たカップル、麻のジャケットを着た紳士、等々、美術館あるあるな人々がほぼ無言でゆっくり歩く。まれに、
「ママー、この人、顔がない」
と、親に連れてこられた子どもが騒ぐと不意に俗世にかえったような気がする。

 肝心の絵のことを忘れていた。
 一番びっくりしたのは、キリコさんが一時期印象派にはまってルノワールもどきの絵を描いていたこと。タッチは完全にルノワールのものだ。優しいコーラルピンクの手足に目鼻の無い例のマヌカン顔。うーん。でもやはりこの手の主題には、キレッキレのハードな直線が欲しい。

 それから、バレエの演出なども手がけたようだが、シュールレアリスムの衣装というのはどうだろう。手描きの魚とか赤いしゃもじ?みたいなのがでかでかとのってる摩訶不思議な衣装。回転すると違う絵が浮かびます、とかそんなしかけがあったら楽しい、が。

 ・・・外に出ると蒸された空気が真綿のように全身を包み込んで、動くのがいやになった。館内が低温に設定されていたせいで、北極から赤道へ放り出されたような気分になる。毎日北極と赤道を行き来していれば具合も悪くなる。お盆休みの延長を切に願います。

 

 

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