#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.13
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#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.13
ほんとうに何気なく入った本屋さんだった。
ショッピングモールの2階にある本屋さんは開店して少ししか時間がたっておらず、お客さんは誰も入っていなかった。
通路側に誰でも立ち読みできるように雑誌が並べられており、僕はお店の思惑通り立ち止まって雑誌を手に取った。
いつもファッション雑誌を立ち読みする時、僕はメンズ雑誌をパラパラと見た後に一応レディースのファッション雑誌も目を通すようにしている。
今日もメンズの雑誌を数冊チェックし終えたので、レディースのファッション雑誌のコーナーへ向かった。
ところ狭しと並べられた雑誌たち。
それぞれの雑誌に大きく書かれている特集記事の内容。
その中に「ロンドン」の文字が目に入った。
金髪の細い外国人のモデルが、カラフルなニットを着て、ライトイエローのショーツを履き、ハイソックスのコーディネートでジャンプしていた。
雑誌全体はモデルのバッグに写る青空が一面に広がったいた。
「装苑がロンドン特集しているんだ。。」
僕は来週からイギリス留学を控えている。そしてタイミング良くロンドン特集をしている装苑という雑誌を真っ先に手に取った。
装苑はファッションデザインやファッションカルチャーに特化した雑誌であり、デザイン専門学校生なら誰もが読む雑誌だ。
装苑賞というファッションデザイナーの登竜門とも言えるコンテストを開催する雑誌としても認知されてる。
「そういや最近装苑チェックしてなかったなぁ。ロンドン特集なら買っておいていいかも。」
と僕はパラパラとロンドンのお店紹介やブランド紹介がされているページをめくっていた。
「ん?!」
僕は思わず手を止めた。
そこにはロンドンブランドであるエドワードマツモトのアトリエ取材の記事が広がっている。
日本人女性とイギリス人男性の夫婦が手がけるブランド。
イギリスでも日本でも人気があり、ロンドンファッションウィークでランウェイショーに参加している。
アトリエ取材では、エドワードマツモトのインタビューに重ねてアトリエ内部の写真がたくさん載っていた。
毎シーズンのデザインが生まれているデスク。
サンプルを縫製する数台の大きなミシン。
オリジナル生地を作るシルクスクリーンの長い細いプリント台。
そこに写るアトリエの風景は僕が理想とするデザイナーの仕事だった。
「ここで働きたい!」
僕はエドワードマツモトの特集記事やアトリエの写真を見て、そう確信した。
イギリス留学をしてロンドンに行ったら、エドワードマツモトで働けないかどうか尋ねてみよう。
僕は胸が高まって、自分がロンドンに到着した後の新しい挑戦に居ても立っても居られなかった。
僕はまだ立ち読みしていない他のファッション雑誌を無視してロンドン特集の装苑をレジに持って行った。
もう頭の中ではエドワードマツモトのアトリエを訪問する気になっている。
なんて言えば良い?どうやったら働かせてくれるだろう?
頭をフル回転し、自分だけの作戦会議が繰り広げられた。
購入した雑誌を受け取りショッピングモールの外の駐輪場に向かう時間、そして自宅へ戻るまでの時間も頭の中ではエドワードマツモトのアトリエで働く方法の模索だった。
でも自宅に着いた途端、深夜のバイト明けの体はどっと疲れを感じていた。
リビングにはコーヒーメーカーの中にドリップされたコーヒーが入っていた。
いつものように、早朝にパートへ出勤した母親が僕の分も作ってくれていたコーヒーだった。
電子レンジでコーヒーを温めながら、さっき本屋さんで購入したロンドン特集の装苑を取り出した。
「決めた!僕はロンドンに行ったらファッションブランドの元で働きたい!」
日本を出国するまで後1週間。ずっと漠然と語学学校に行く予定しか立てていなかったけれど明確な目標ができたタイミングだった。
僕はファッションの専門学校でデザインを勉強した。
その経験を生かして、ロンドンでもファッションの第一線の仕事を経験したい。
そう強く思えた日だった。
1冊の雑誌が僕の背中を押してくれた。
「熱っ!」
一口飲んだコーヒーで思わず声が出た。
電子レンジで温め過ぎていたコーヒーは飲めないくらいの熱々になっていた。
続く
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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。