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#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.9

小説 #ロンドンのウソつき 「キッカケ」 無料連載中です。

最初から読んで頂ける方はマガジンにまとめていますのでNo.1からどうぞ。


#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.9


自動ドアが開く音が聞こえたので、僕は条件反射的に声がでた。


「いらっしゃいませー!」

スーツを着た年配の男性が吸い込まれるように1人、また1人と入ってくる。

専門学校に通いつつも吉野家のアルバイトはずっと続けていた。
時給が良いという理由で深夜の時間に働いていたので、僕の体内時計は毎日ぐちゃぐちゃだった。

「牛鮭定食…」

「かしこまりました!牛鮭一丁〜。」

無愛想に注文をするお客にもすっかり慣れて、こちらは営業スマイルで常に答える。
今の朝7時台となると、出勤前の会社員が朝ごはんを求めてたくさんやってくる。

いつも自宅で朝ごはんを簡単に済ます僕は、最初にこの光景を見た時に驚いた。
そして「みんな朝の歯磨きはどうしているんだろう。。会社でするの?」なんて素朴な疑問を抱いていた。

「牛鮭定食お待たせ致しました〜。」

注文してすぐに出てくるのが吉野家の魅力だ。
後ろで調理担当をするアルバイトの先輩はとにかく作業が早い。

「お会計!」

「ありがとうございます。430円いただきます。ありがとうございました!」

朝の出勤時のピークは注文・料理提供・お会計と全てが1人での作業だったので大変だ。
1人しか通ることのできない細いカウンターの通路を忙しなく行き来している。

「お疲れ様でーす。」

朝番担当の伊藤さんが着替えてやってきた。
伊藤さんは気が強い主婦の方で “ 姉さん “ 的な存在。
僕たち学生バイトからも信頼されている姉さんだ。

「引き継ぎお願いします。」

僕は自分が持っている金庫の鍵などを渡し、伊藤さんとお店をバトンタッチした。
朝のピークを終えていつもこの時間はヘトヘトになる。

すぐに休憩室へ向かい、すっかり牛丼臭くなったオレンジとネイビーのユニフォームから私服に着替えた。
ロッカーの中では仕事中の伊藤さんの携帯電話が鳴っていた。着メロが小泉今日子の曲で伊藤さんっぽい選曲ですごく笑った。

「お疲れ様でしたー!」

一緒の深夜の営業を終えて休憩室でケータイをいじっている先輩をよそに、僕はそそくさと着替えて外へ出た。

少し急いでいるのには理由がある。
今日はパスポートの更新をしなくてはいけない。
僕のパスポートは17歳の時に5年間有効のものを作った。今僕は22歳なのでもうすぐパスポートの期限が切れそうだった。


なのでイギリスのビザを取得する前にパスポートの更新が必要だった。
僕は夜勤明けの疲れと眠気の中、京都駅のビルの中に入っている旅券事務所に向かった。

自転車を漕ぎならがイギリスへ行った自分を想像していたが、特に語学学校以外の目的は無かった。” 英語が話せるようになったらいいな “ とか “ 英語の授業はついていけるかな” など語学学校への不安しかなかった。

京都駅へ向かう途中の街並みを見て、自然と昔の思い出に浸ったもした。
“ この道は昔の彼女と歩いたな “ とか “ 中学生の頃に塾の夏季合宿で来たところだ “ など地元ならではの思い出が蘇って来た。


京都駅に着くとたくさんの人がパスポートの更新に来るためなのか、すぐに目につくところに旅券事務所への案内が貼ってあった。
矢印を辿りながらエレベーターに乗り、案内通り8階を押す。

エレベーターが開いた先は、いかにもお役所っぽい無機質な造りの内装と、飾り気のないテーブルが並んでいた。
朝早くに来たにも関わらず、結構たくさんの人が申請に来ていた。

僕は眠い目をこすりながら面倒な申請書類を書き番号札を引いた。

「13番の方〜」

そう呼ばれて僕は自分の手元の番号札を確認しながら向かった。

窓口のおじさんはポロシャツ姿のいかにも役所で働いている真面目そうな人だった。
僕が面倒臭そうに汚い字で書いた書類を見て、読みづらそうに1つ1つ名前から住所まで相互確認を進めていた。

戸籍謄本などの必要な書類も提出し、後日パスポートを受け取りする説明を受けスムーズに終わった。

今日の目的が終わったことで僕はドスンと疲れを感じた。
夜勤明けの疲労と眠気。そして自転車での移動が応えた。

せっかく京都駅まで来たんだし、何か抹茶味のお菓子でも買って帰ろうかとお土産が売っている売店まで行こうと思ったがそんな気力は残っていなかった。

近くに止めていた自転車にまたがり、とぼとぼと家路についた。
多分家に帰るとお昼ご飯が用意されているはずだ。

続く

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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


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桜井飛英
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