#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.7
小説 #ロンドンのウソつき 「キッカケ」 無料連載中です。
最初から読んで頂ける方はマガジンにまとめていますのでNo.1からどうぞ。
#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.7
「土曜日に学校へ来るなんて変な気分だな。」僕はいつもの通学と違ってガラガラに空いている朝の電車に違和感を感じた。
今日は土曜日なので授業はない。でも事務作業で出勤している遠藤さんにイギリス留学の相談をするために来た。
「土曜日の午前中ならいいよー。」
と遠藤さんからメールの返事が来たので、朝10時を過ぎる頃に学校へ着いた。
いつもなら出入り口に警備員のおじさんがいるけれど、今日は休みの日なのか警備員さんはいなかった。
学校に入って正面すぐのスタッフルームを見渡すと机に座って書類を広げている遠藤さんがいた。
そのほかにも数人のスタッフさんがいたけれど、インテリア学科やメイク学科のスタッフさんで顔は知っているけれど名前は1人も知らない人たちだった。
「遠藤さん、着きました!」
スタッフルームの前にある受付カウンター越しに遠藤さんを呼んだ。
休みの日だからだろうか、遠藤さんは珍しくメガネ姿だった。
「おっ、おはよう!今行くわ。」
貴重な休日である土曜日に僕の相談に乗ってくれる遠藤さんは、嫌な顔をすることなく出入り口付近のフリースペースへ移動して来た。
「で、どんな感じになった??」
遠藤さんはイスに座るか座らないかのタイミングで僕に聞いてきた。
「いろいろネットで調べました。イギリスの語学学校とか、ビザのこととか。ただ、ネットで調べるといろいろと悪いことが書かれているんです。」
「えっ?悪いことって?」
遠藤さんがポカンとした顔で聞き返してきた。
僕は事前に自宅でプリントアウトして来たネットのページを遠藤さんに見せた。
「例えばこれ、『語学留学をしても帰国してから仕事が見つからないからやめとけ。』みたなこととか『語学学校の授業も適当だし、友達もできずに辛い思いするだけ。』とか。いろいろ悪い体験談が書かれています。」
僕の渡したプリントアウトした紙を見ながら遠藤さんは半笑いになっている。
「こんなの信じたらダメでしょ!全然気にすることないよ。」
「えっ!?」
遠藤さんの意外な反応にまた驚かされている。
「悪い話なんて一部だし、そんな一部の話がネットで書かれて広がっているだけ。だって良いこと書かれていてもなかなか拡散されにくいでしょ?悪いことの方が怒りをエネルギーして、ネットに書かれて拡散されるから。そんな悪い内容の記事は気にしなくて大丈夫。全て自分次第だし。」
遠藤さんはプリントアウトした紙を全て読むことなく僕に戻した。
確かに遠藤さんの言うことは正しいと納得した。そして遠藤さんは実際にイギリスに留学していた人だからすごく説得力もあった。
「そんなもんですかねぇ。これ読んで僕は不安になりましたけど。。。」
と、それでも少し腑に落ちない僕に遠藤さんは付け足した。
「気にしなくていいよ。実際に私の周りの日本人の留学生もみんな活き活きした生活していたし。就職も自分次第でしょ、そこは!」
その言葉で僕は全部納得をした。いや、自分を納得させた。ちょっと不安になっていたイギリス留学を前向きに考えられるようになった。
遠藤さんは僕がまだ抱えている他の資料らしき紙に視線を送っている。
「他は?語学学校とか良さそうなところ見つけた?」
僕は慌てて、いろいろと調べた語学学校の資料や相談したかったビザ発行の疑問点について遠藤さんに聞いた。
遠藤さんは語学学校の資料を見ながら、「この年間8万円の語学学校は安過ぎるから、多分ビザを取ることを目的に申し込んでいる人が多いと思う。」とか「こっちの20〜30万円の語学学校の方がある程度授業は成り立ってて、ビザの審査も確実に通るんじゃないかなぁ。」などのアドバイスをくれた。
最終的に僕はロンドンの中心部であるチャンスリー・レーン駅に近い年間20万円くらいの語学学校に決めた。
「申し込みをして授業料を振り込む時ってどうやって振り込むんですか?」
「普通に国際送金で銀行からでいいと思うよ。」
僕はここでも不安がいっぱいだった。
「えっ、国際送金とか使ったことないです。ちゃんと振り込まれるんですか?」
遠藤さんが当然のように答えた。
「えっ、普通に大丈夫でしょ!」
僕の1つ1つの不安に対して全く動じないで “そんなの当然” かのように振る舞う遠藤さんが僕には神様のように見えた。
イギリス留学をすると、遠藤さんのようにたくましくなれるのか。自分もこんな風な大人に成長できるだろうか。と魅力に満ち溢れる遠藤さんを見て考えていた。
僕は遠藤さんにお礼を言って学校を出た。
頭の中は『帰ったらやるべき事リスト』で埋めつくされていて、帰りの電車がじれったく感じた。
地下鉄の心斎橋駅まで向かうまでの街並みは、全て僕のために用意されたいるのではないかと思うくらいワクワクが止まらなかった。
続く
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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。