#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.16
小説 #ロンドンのウソつき 「キッカケ」 無料連載中です。
最初から読んで頂ける方はマガジンにまとめていますのでNo.1からどうぞ。
#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.16
大阪の海の上に続く長い長い橋を電車で渡ったら、そこに関西国際空港が待っていた。
電車が到着し、僕は大きなバックパックを背負って電車から降りた。
関西国際空港には数回来たことがあったがいつも迷ってしまう。
少しウロウロしてしまったけれど、なんとか出発ロビーにたどり着いてチェックインカウンターへ向かった。
いつも空港へは時間に余裕を持って到着するようにしているので、僕のフライトはまさに受付開始になったばかりのようだった。
制服をビシッと着こなした受付の女性が手慣れた手つきで手続きをしてくれた。
ボールペンでチケットに印をつけながら、丁寧にゲートや時間の案内を僕に伝えてくれる。
後は荷物検査などをして搭乗ゲートに向かうだけ。
だけど時間に余裕があったため、少しの間だけズラッとたくさん並ぶ空港のベンチに座って時間を潰していた。
目の前にある巨大なディスプレイにはたくさんの飛行機の案内がされていて、暗号のようにいろいろな飛行機の便名が書かれている。
初めて住むイギリスはどんなところなのだろうか。
写真や映像でしか見たことがないイギリスを想像しながら何をすることもなく時間を潰していた。
「いた!いた!」
突然、大声がした。
パッと顔を右側に向けると、専門学校の友達がこちら向かって歩いて来た。
「見つけた!」
2年間の専門学校で同じクラスだった野口と佐々木がそこにいた。
「どうやって分かったの?!」
僕は驚いた。
イギリスに行くために日本で使っている携帯電話は自宅に置いて来た。
今月末に自動的に解約されることにもなっているからだ。
だから今、僕と連絡を取る手段はない。
それでも空港に来れば見つかると信じてわざわざ来てくれた。
「ありがとう!ありがとう!」
僕は空港まで見送りに来てくれた2人にお礼を言った。
広い空港なので、もしかしたら出会えないかもしれない。
それでも来てくれていた。
以前チラッと大体の出発時間などの話をメールでしていて、その情報を元に2人でサプライズをしてくれた。
「見つけられて良かったよ。ちょっとご飯でも食べてく??」
年齢が2つ上でしっかり者の佐々木が提案してくれ、3人で空港内になるお蕎麦屋さんに入った。
イギリスに行けば食べる機会も無くなるだろうということで、食べ納めの意味も込めて選んだ。
「それにしてもスゴイよね。本当にイギリスに行ってしまうんだ。」
「羨ましいなぁ。」
なんて2人との出発前の会話を蕎麦を食べながら楽しんでいた。
ざる蕎麦を3人とも選び、男3人で音を立てながらすする。
「もし1年ではなく、もっと長くイギリスに居たいと思ったらどうするの?」
野口が僕に聞いてきた。
「そうなるかもしれないと思って運転免許の更新を期限前にしておいたんだよね。」
「偉い!」
僕の運転免許証は来年に更新するタイミングだった。
もし、イギリスに1年で帰らないことになる可能性もあると思い、実は事前に更新を済ませていた。
それぐらい用意周到にイギリス留学の段取りを組んでいた。
不安で不安で仕方がなくて、気になる不安材料は全て潰しておきたかったことが本音。
ざる蕎麦はちょうど良い量でお腹に満足感があった。
こうやって友達と一緒に食べることで緊張も和らいだと思う。
野口と佐々木は同じ大手繊維メーカーへの就職が決まっていて、すでに4月に入って何回か出社をしていた。
2人は部署は違えど同じ会社に就職したことで何かと共感できることが多いようだ。
会社にいる変な人の話だとか会社独特のルールだとか、面白い話をしてくれた。
「そろそろ行こうかなぁ。」
店員さんがざる蕎麦を下げる時に注ぎ足し入れてくれたお茶を飲みながら、僕は時間を気にした。
「そうだね。早めに手荷物検査した方が良いよ。」
佐々木にそう言われて、自然とみんな席を立った。そして佐々木がお会計を済まし、お蕎麦をご馳走してくれた。
3人はお蕎麦屋さんを出て、すぐ近くの手荷物検査ゲートへと向かった。
「イギリスでもまた連絡取り合おうや!」
「そうそう!そうしよう!」
3人で連絡を取り合う約束をして、そしてお見送りのお礼を言って僕は手荷物検査ゲートへと向かった。
なんだか照れくさい。
そして、それもお互い様だ。
野口と佐々木が並んで手を振ってくれる姿を振り返って確認して、僕はゲートの中に入った。
「持つべき物は友」なんだな。と今日だけで2回も感じたことだった。
そして同時に、イギリスでどんな苦労をしても絶対に諦めないと心に誓った。
手荷物検査ゲートが自分の人生を変える境界線にように感じた。
#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 完
ここまでお読み頂きありがとうございます。
#ロンドンのウソつき 「キッカケ」は第1章として執筆しました。
引き続き第2章も執筆していきますので、そちらもよろしくお願い致します。
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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。