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#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.8

小説 #ロンドンのウソつき 「キッカケ」 無料連載中です。

最初から読んで頂ける方はマガジンにまとめていますのでNo.1からどうぞ。




#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.8


なんでも自分が経験したことがない初めて時は不安でいっぱいになる。
それが失敗の許されない自分の大金を賭けたことだと尚更だ。

僕は駅前にあるUFJ銀行に自転車で向かっていた。蒸し暑い夏の天気に汗が滲み出る。
今日は学校が午後からなので朝は比較的ゆっくりできる日。
いつもお金を下ろす時はコンビニが多いので、意外と銀行なんて普段はあまり用はなく通り過ぎているんだなと思った。

しかも今日はちょっと落ち着かない。
何百回と通学のために通っているいつもの見慣れた道が、今日だけ周りから僕に対して視線を集めているようにも感じた。
スーパーに買い物に来るおばさんや、小さい自転車に乗っている子供ですらも僕の緊張がバレているような気になった。

今日はイギリスで通う予定にしている語学学校へ入金する日だ。

通うと決めた年間20万円の格安語学学校にはホームページにあるフォームで申し込みをした。
慣れない英語で書かれたフォームはシンプルなものだったけれど2時間もかかってしまった。
知らない単語が出るたびに調べながら進めていたからである。

英語を勉強するのに英語で申し込みをするなんてハードルが高いし、そもそも親切ではないなと疑問に思いつつも淡々と申し込みを進めた。


正直、すべて間違いなく申し込みができたかどうかは分からなかったが、翌日すぐに申し込み確認のようなメールが届いた。

どうやら授業料の入金をしないといけないようだった。
メールには見慣れない£(ポンド)表記の値段と銀行口座の詳細が書かれていた。

僕は無動作に銀行前の道に自転車を停めた。
自動ドアで入った銀行はクーラーがかかっていて快適な温度だった。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

銀行に入るなり、やたらと丁寧に声をかけられた。
自分の母親くらいの年齢の女性が僕に笑顔を振りまいている。

「国際送金をしたくて来ました。」

僕が答えると、窓際にあるテーブルに案内され、何やら難しそうな記入用紙を渡された。
目の前のたくさんの種類がある書類フォルダからスッと迷いなく抜かれて用紙を渡されたことから「国際送金ってそこまで珍しいことではないんだ。」と僕は感じた。


「わかる範囲で太字の枠内を記入して頂きまして、後ほど56番でお呼びします。」

そう言われて、僕は語学学校から届いたメールの振込先口座などを記入した。
普段のカタカナ表記ではなく全てが英語での記入だったので緊張しながら書いていた。

どれぐらい時間をかけていたかは覚えていないけれど、書い終えたと同時に奥の窓口から56番が呼ばれた。
どうやら僕が書き終えるのを窓口の方が待ってくれていたようだ。

ここでも淡々とチェックが入り、自分の免許証を見せるなどして必要なお金を渡した。
もともと少し授業料が値上がりしていたことと、語学学校の手数料や国際送金の手数料なども合わさり、最終的な金額は25万4000円とちょっとだった。

語学学校に通うことが決まる決定的なタイミングなのに、目の前の窓口のお姉さんは淡々と仕事をこなしている。
この人は僕の国際送金に対してどんなことを思っているのだろうかと無駄なことを思いながら手続きが終わるのを待っていた。

「もう1度呼びますので座ってお待ちください。」

そう言われて、すぐ後ろにある背もたれのない長椅子に戻った。
銀行内は前に来た時の記憶通り、窓口の後ろにある壁に大きな金庫の扉があった。
窓口の後ろはたくさんの机が並び、スーツを着たおじさんたちが僕たちの視線に気づいているのかいないのか、黙々と仕事をしていた。


「谷山さーん」

すぐに名前が呼ばれ、国際送金が完了したことを証明する書類をもらった。
僕はその書類を雑にトートバッグの中に詰め込み、銀行を後にした。

「本当にこれで入金されたのだどうか。。」

僕は手続きが終わった今でも、まだ国際送金の実感が湧かなかった。
そのまま足早に駅に向かい、昼から始まる授業へと向かった。

快晴の空は日差しが強く、照りつけるようだった。

続く

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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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桜井飛英
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