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#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.10

小説 #ロンドンのウソつき 「キッカケ」 無料連載中です。

最初から読んで頂ける方はマガジンにまとめていますのでNo.1からどうぞ。


#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.10


心斎橋駅を降りた僕はいつもの学校へ向かう方向と逆の向きに御堂筋を歩き出した。
今日はイギリスに滞在するためビザ申請で英国領事館に行く日だった。

御堂筋を北に歩いてすぐにある背の高い立派なビル。ここの19階に在大阪英国総領事館があった。

エレベーターが空き、少し重たい扉を開くとセキリュティのおじさんが立っていて、いかにも厳重な警備がされていた。

入り口で持ち物検査や金属探知機を体全体に当てられるなど、一通りにチェックを受けた。
まるでこれから飛行機に乗るような空港で受けるセキリュティチェックと同じだった。


「はい、どうぞ」

チェックを終えてセキュリティのおじさんが中に通してくれた。

入ってすぐ左にある受付に今日のビザ申請の予約をしている旨を伝え、自宅からプリントアウトした書類を渡した。
係の優しそうな女性からは名前が呼ばれるまで席に着くようにと案内された。

決して広いとは言えない領事館にはたくさんのイスが同じ方法に並んでおり、僕はとりあえず端のイスに遠慮がちに座った。

僕よりも先に来ていた人が2人、そのうち1人が呼ばれて別室に入って行った。

僕はいつも領事館や大使館の雰囲気が好きになれない。
ここは日本なのか外国なのか分からないし、日本の雰囲気とその国独特の雰囲気が混じりあって居心地は良くなかった。

目の前にあるカウンター越しの向こう側ではイギリスの方であろう人たちが事務作業を行っていて、ロボットのように無表情だった。

「谷山さん〜。」

僕の名前がすぐに呼ばれた。
僕より先に来ている人がもう1人いたけれど、その人は飛ばされていた。
多分違う用事で来ているんだろうと思い、僕は気にせず言われるがまま別室に入っていった。

席に着くように職員の男性にすすめられた。
見た目は金髪の白人で僕たちがイメージする ” イギリス人 “ だけれども、話す日本語に違和感は感じなかった。

「学生ビザの申請をお願いします。」

僕は用意した書類をバッグから取り出しながら領事館の職員の男性に伝えた。

「それでは先にパスポートをお出しください。」

男性のこの言葉から作業は淡々と進んだ。

ビザに必要な写真は不備があってはいけないからと、街の写真屋さんのおじさんに撮ってもらった。
預金残高の確認もされるので、自分が持っていた3つの銀行口座のコピーをまとめて用意した。
すでに入金済みの入学予定の語学学校の案内や領収書・入学証も用意した。

何度も何度も、インターネットから情報を集めたので自分の中で書類の準備は完璧だった。

職員の男性は表情1つ変えることなく1つ1つ必要な書類を僕から集めていく。
この人と今こうして時間を共にしてる記憶なんて、お互いすぐに忘れてしまうんだろうと思うと人間性の無いやりとりに切なさも感じた。

「では指紋を取りますので、こちらに指を当ててください。」

そう言われて僕は透明の板に赤い光が差している小さな箱のような機械に指を1本1本押し当てた。
かなり強く押し当てないといけないようで、何度もやり直しの指示を受けた。
終わった時は指が痛いくらいだった。

20分もしくは30分くらい経ったのだろうか。
全ての手続きが終わり、パスポートはビザと一緒に郵送で返却されると伝えれらた。

「ありがとうございました!」

僕は担当してくれた職員の方に愛想良くお礼を言った。
ビザの審査に影響するとは思わないけれど、牛丼屋のバイトで身についた営業スマイルが役立ったと感じた。


僕はまた厳重なセキュリティのエントランスを通り、エレベーターに乗った。
1つ大きな仕事が終わって、やり切った気持ちとビザの審査に問題がないかどうかの不安が少しあった。

ビルの外に出て僕はすぐ心斎橋駅へと戻り、次は2駅北にある淀屋橋駅に向かう。

今日は特別な日。これから専門学校の卒業式だ。
会場となる大阪シティーホールへと足早に向かった。

続く

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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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桜井飛英
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