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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.26

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第五章 オーナーシェフの「仕事」

vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール

26.「自分の店」でやりたいこと、とは

日本料理店で出会った驚きと感動

独立した当初、僕の頭の中は「やりたい料理をやるんだ!」という思いでいっぱいでした。それまで働いていた「レストラン モナリザ」は、60~70席もある上に連日満席というお店だったので、全てのお客様にスムーズに不公平なく美味しい料理を楽しんでいただくには、システマティックに仕事を進めなくてはいけない部分がありました。魅力的な食材に出会ったり試してみたい料理のアイデアが浮かんだりしても急な変更は難しいし、個々の客様に合わせたアレンジも出来ません。挑戦的でやり甲斐のある環境でしたが、アラミニッツの料理の面白さも知っているだけに「やりたい!」が僕の中に積もっていたのです。
そして、その想いをさらに強めていたのが、東京・元麻布の「日本料理 かんだ」での体験でした。

初めて「かんだ」で食事をしたのは、フランス修業に行く前でした。モナリザのスタッフと2名で伺ったのですが、ふと気づくと、僕たちには他のお客様よりも盛られている量が多いように見える。次の料理もその次の料理も同様だったので、僕たちの食べっぷりを見て意図されたものだと分かりました。他のお客様についても、お二人連れでも赤ワインを飲んでいる方には牛ほほ肉を煮込みで、白ワインを飲んでいる方にはローストで出されていますし、右利き・左利きにも合わせた盛り方がされている。
「わぁ、すごいなぁ・・・」
単純に感動しました。ちなみに、「かんだ」がミシュランの三つ星を獲得したのは、この翌年です。
帰国してシェフになってからも2度ほど伺いましたが、そのたびに新しい驚きと感動があり、毎回「すごいなぁ」と思っています。

ない発想を取り入れる

この「料理を厨房やカウンターで完結させず、サービスを介して、お客様ひとりひとりに合わせた形で完成させる」という発想は、フランス料理にはありません。少なくとも当時は、現地フランスでもなかった。もちろん、アレルギーなど食べられない食材を別の物に変えたり、常連の上客だけのメニューがあったりはしましたが、初来店のお客様も含めすべてのお客様に合わせて料理を出すという考え方はありませんでした。
しかし「かんだ」では、「この人、このシチュエーションだから、こうしたい」という気持ちが料理から見える。例えば、シャンパンやワインの持ち込みがあれば、それに合わせた仕立てで料理が出てきます。持ち込ませて終わりではなく、持ち込む=食事をしながら飲むというところまで考えて料理を用意しているということです。
お客様が店での食事をどう楽しみたいかを感じ取って表現できる料理人のセンスと技術、そしてサービスも含めたスタッフ全員のチームワーク、そのどれが欠けても実現できない世界。僕はそれをフレンチレストランである自分の店で実現したいと思いました。

とはいえ、独立したての頃は、とてもそんな想いには至れませんでした。怒涛の日々を、ひたすら「美味しい料理を作りたい!」という想いで突っ走るのみ。今から思えば、肩書は“オーナーシェフ”でも頭の中は修業時代と変わらない“シェフ”のままでした、
変わったのはオープン3年目。新型コロナウィルス感染症対策のための営業自粛がきっかけでした。

コロナ自粛の中で

vol.1の始めに書いたように、僕は2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。幸か不幸か時間だけはあったので、自分と向き合い、シェフにとっての仕事とは何か、オーナーとして何をすべきかを考え抜きました。そうして見えてきた「クレリエールの目指すもの」は、「お客様に合わせた料理をお出しする」でした。原点に戻ったようですが、以前と大きく違うのが、前に「オーナーとして」がつく、という点です。
それには、コロナで大変な状況になったからこそ、料理にしか関心がなかった僕でも経営の大切さを重く実感し、本気で勉強しないとダメだと思うようになったのも大きかったと思います。そして目についた本を手当たり次第に読み、知見のある方々のお話を伺いました。知識が深まるほどに興味も広がり、意識も変わっていきます。意識が変わると、それまで気づかなかった発見もできます。そうして僕は、自分の店でやりたいことを見定めつつオーナーシェフとしての自分を建てつけていきました。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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