ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.32
東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
第六章 ミシュラン三つ星を目指す
vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
→ 第一章 レストランのシェフになる
→ 第二章 プロの世界へ
→ 第三章 「料理長」を見据えて
→ 第四章 レストラン ラ クレリエール
→ 第五章 オーナーシェフの「仕事」
32.チームクレリエールで三つ星を目指す
宣言の反響
「三つ星を取る宣言」をSNSに投稿した時、料理人仲間たちの反応は「とうとう言ったね(笑)」でした。お客様からも応援の言葉をいただく一方で、「そんなことを言っちゃって大丈夫?」と心配してくださる方もいらっしゃいました。
批判や反発もたくさんありました。直接より間接的に聞こえてくる方が多かったですね、ある程度予想していたことなので、特にショックは受けなかったですし、自分とは全く違う考え方や価値観を知るチャンスだと思っていました。
思いがけなかったのは、人材への影響です。宣言の後、「シェフと一緒に三つ星を目指したい」と言ってクレリエールに来てくれる若者が目に見えて増えました。しかも、その厳しさも十分承知していて、相当な覚悟と情熱をもって臨もうとしている。最近では、このnoteを読んでいると言われることもあって、嬉しいですね。
チームクレリエールの今
以前もお話したように、僕は「サービス」に日本の三つ星フレンチの素晴らしさがあると考えています。そこで先ずサービススタッフを強化しました。知識や技術はもちろん、「お客様ひとりひとりに向き合った料理をお出ししたい」という僕の意向を的確に実現できるプロ中のプロのサービス人が、「シェフと一緒に三つ星を!」という強い意志を持って働いてくれています。
厨房は、宣言の前から三つ星を意識して動いていましたが、独立や新しい仕事に向け卒業するスタッフがいる一方で、先ほど話したような若い人たちが入ってきました。スタジエ(研修)の問合せも多く、条件が合えば来てもらうようにしています。想像以上の厳しさに一日で辞めてしまう人もいますよ。それでもその人の今後の糧になってくれたら良いと考えています。
正直に言って、クレリエール規模の店で、今のクオリティの料理を作り出せる厨房とサービススタッフの布陣は、「凄い」と思っています。しかし、僕がそう思っているだけでは単なる自画自賛です。大事なのは、お客様にその凄さをしっかり楽しんでいただけること!そのためにも一日も早く新型コロナウィルス感染症が収束して、お客様が安心してレストランを楽しめるようになることを願うばかりです。
目標のその先に
ミシュランの星を本気で目指すほど、「一つ」と「三つ」の間には気が遠くなるほどの距離がある現実を突きつけられます。今のクレリエールでは、ロオジエには届きません。上を目指して「クレリエールに足りないもの」を一つ一つ確実に潰していくには、それなりの時間がかかるでしょう。しかし僕は「45歳までに三つ星を取りたい」と考えています。取った後にやりたいことがあるからです。
パリの修業時代に僕はフランスのミシュランと日本のミシュランは違うのだと実感しました。フランスでは三つ星シェフは「国宝」です。一方、そういった文化背景がない日本では、努力して苦労して三つ星を取っても報われないことの方が多く、「取ったところで・・・」と言われることも珍しくありません。
それでも僕は、三つ星シェフだから出来ることがあるはずだと信じています。料理人の目標として三つ星を取る以上に、その先のもっと大きな目標rを叶えることが僕には大事なのです。
目標は村上ムッシュ
その一つが、現代の村上ムッシュになること。ご存知の方も多いと思いますが、村上ムッシュとは帝国ホテルの初代総料理長・村上信夫シェフのことです。ムッシュは、帝国ホテルで料理長を務める傍ら、NHKの料理番組『きょうの料理』に出演するという、当時の常識ではありえなかった「高級ホテルのシェフが夕方のテレビのお料理番組を担当する」ことを実行し、フランス料理の存在やその魅力を日本の家庭に広めた方です。当時に比べればフランス料理は日本人にとって身近な存在になりましたが、僕は大好きなフランス料理をもっともっと広めたい。その魅力や奥深さ、日本だから味わえる楽しみを多くの方に体感していただきたい。ムッシュの“帝国ホテル”のように、“三つ星”は確実にそれを推進する力になります。
未来を拓く
さらに、僕は若いスタッフの夢も叶えたい。オーナーシェフである僕には、その責任があると思っています。そして三つ星は、彼らの未来を拓く助けになるはずです。
先ず、スタッフの誇りになります。(誇りに思えるような三つ星店を作ります!)そして誇りをもって仕事ができる状況は、彼らの成長にもプラスに作用するでしょう。
クレリエール卒業後も、三つ星店出身となれば選択の幅が広がり、結果、彼らの可能性も広がります。
僕自身も、三つ星シェフとしての存在力や説得力をフルに使って、レストランやフレンチの未来が少しでも豊かになるよう、様々な形で出来ることを全力やっていきたいと考えています。
僕にとってミシュラン三つ星は終着駅ではありません。大きな大きな目標の実現への切符です。
レストラン ラ クレリエールは“チームクレリエール”として、その切符を全力で取りにいきます!
「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はまだまだ続きますが、連載としてのお話は一旦終了です。
次回からはクレリエールのお料理について、いろいろな切り口でお話していきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。
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