11月はオープン5周年記念のアニバーサリーメニューをご提供します
東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしています。
連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
→ 第一章 レストランのシェフになる
→ 第二章 プロの世界へ
→ 第三章 「料理長」を見据えて
→ 第四章 レストラン ラ クレリエール
→ 第五章 オーナーシェフの「仕事」
→ 第六章 ミシュラン三つ星を目指す
「料理集」のバックナンバーです。
→ vol.1 第一皿(résumé) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
→ vol.2 第一皿(recette) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
→ vol.3 第二皿(résumé) 桃のガスパチョ
→ vol.4 第二皿(recette) 桃のガスパチョ
→ vol.5 第三皿(résumé) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド
→ vol.6 第三皿(recette) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド
→ vol.7 第四皿(résumé) 雷鳥のロースト
4月オープンですが...
来月11月は、ラ クレリエール開店5周年を記念したアニバーサリーメニューをご用意しています。あれ?クレリエールのオープンって4月じゃなかったっけ?と思った方は、かなりのクレリエール通か以前の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」をしっかり読んでくださった方かもしれません。はい、オープン日は2016年4月21日です。
周年を祝うアニバーサリーですから4月~5月までに行うのが常道です。実際、1周年~3周年はそうしていました。ところが昨年は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため4月2日から5月31 日まで営業を自粛。4月21日~5月6日で予定していた4周年アニバーサリーも、延期を余儀なくされました。営業環境を整え準備を進めて、ようやく記念メニューを提供できたのは、6月1 日の営業再開からさらに5か月以上経った11月18 日からでした。
延期を決めた当初は、悔しく残念で仕方がありませんでした。でも、いざ11月に開催してみたら「これも悪くない」と思えました。季節的に使える食材が増え、お客様にお楽しみいただける幅もより広げられる可能性があることに気づいたからです。そこでいろいろと考えた結果、今年も11月に開催することにしました。
4番バッターが勢ぞろい!
メニューのコンセプトは、1周年の時から変わっていません。それは、「その年の4番バッターを揃え、そこに季節感を盛り込んでお届けする」こと。定番でお出ししているアミューズブーシュの盛り合わせ以外は、その年に出来たお料理の中で「クオリティが特に高いもの」や「印象に強く残っているもの」で構成します。
季節感を盛り込むのは、クレリエールでは常に季節を大事にしているから。春や夏に出していたお料理をそのままご提供するのではなく、食材や調理法を変えるなど11月に出すのにふさわしいアレンジを加えてご用意します。常連のお客様の中にはそのアレンジを楽しみにされている方もいらっしゃるので、僕たちにとっても腕とアイデアの見せ所です。
どんなお料理が並ぶかはまだ具体的にお知らせできませんが、白トリュフのお料理は必ず入ります!白トリュフを使い始めて3年目の今年、ようやく僕自身が「フランス料理で白トリュフだったら、これ!」と思える料理が出来あがったからです。5周年を飾る一皿として、ぜひ召し上がっていただきたいと考えています。
アニバーサリーだからこその楽しみと難しさ
そんな強力ラインナップのメニュー構成に加え、コストパフォーマンスの良さに魅力を感じてくださっているお客様も少なくありません。少々あけすけな話で恐縮ですが、クオリティが高かったり印象が強かったりするお料理は、それ自体に力のある素材を使うことが多く、得てして原価が高くなるものです。白トリュフもそうです。毎年、原価率を計算するたびに(経営的に)とんでもないと思います。それをひっくり返すのは、「今年来てくださったお客様に楽しんでいただきたい!」という気持ちだけです。それがなかったら周年メニューは出来ませんし、そもそもやる意味がないと僕は思っています。
さらにクレリエール特有の難しさもあります。それは、食べ疲れ。クレリエールのお料理は、一皿に非常に多くの要素と仕事が盛り込まれています。一見シンプルなローストでも、焼くまでの工程やソース、ガルニチュールなど見えないところに膨大な手間と時間が費やされていることも珍しくありません。そういう料理は、作る側もパワーが要りますが、食べる側もパワーが求められるものです。「4番バッター」ともなれば、込められたパワーもいっそう強く、食べる側もより多くのパワーを消費します。それが何皿も続くのですから疲れて当然です。クレリエールらしさを損なわずに、ずらりと並ぶ4番バッターの中にどう息抜きポイントを入れて緩急をつけるか・・・毎年工夫はしていますが、自分的にはまだまだ改善の余地があり、当面の課題と考えています。
もう一つ、料理人としてのハードルがあります。「以前お出ししたお料理を改めて出す」ことです。すでに完成したものを出すのだから一から考えるより楽なのでは?と思う方もいらっしゃるでしょう。でも、アニバーサリーにいらっしゃるお客様の多くは、常連のお客様、つまり一度はそのお料理を召し上がった方々です。最初に食べた時の感動が大きいほど、二度目のハードルは上がります。インパクトが薄れますし、季節を盛り込んだアレンジを加えてお出しした場合、最初の味を期待しているお客様にとってそのアレンジは不要だったりするからです。だからこそ、「また食べて感動した!」「春に食べた時よりバージョンアップしていて素晴らしかった!」という言葉が、いつも以上に心に響きます。お客様に心から楽しんでいただくことで料理への挑戦心や喜びをいただく。そんな料理人の原点やレストランの魅力に改めて気づかせてもらえるのもアニバーサリー(お祝い)なのだと思います。
今年のメニューは、10~12皿構成で、ランチ15,000円・ディナー26,000円でのご提供を予定しています。常連のお客様が多いですが、クレリエールは初めてというお客様にも十分楽しんでいただける内容だと思っています。期間は、11月1日(月)~31(日)まで1か月間。いろいろな意味でクレリエールらしさがぎゅっと詰まったコースをぜひお楽しみください。
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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。
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