ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.27
東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
第五章 オーナーシェフの「仕事」
vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
→ 第一章 レストランのシェフになる
→ 第二章 プロの世界へ
→ 第三章 「料理長」を見据えて
→ 第四章 レストラン ラ クレリエール
27.レストラン ラ クレリエールが目指すもの
料理は「仕事」ではない
コロナ自粛の間に考え抜いて気づいたのは、僕にとって料理はもはや趣味であって仕事ではない、ということでした。僕の中で「仕事」は、嫌な時もあるけれど生活やスタッフとスタッフの家族を守るためにやらなきゃいけないからやるもの。一方、「趣味」は、好きだからやるし、やる時は自分が好きなように楽しんでやるものです。以前から、オーナーシェフの仕事は経営と人材育成だと何度も聞かされていたので、独立したら料理に対して自分の100%を使えない以上、ある程度は諦めないといけないだろうと思っていました。でも、「料理は趣味」と思い切れたことで、発想がガラリと変わったのです。
経営=やらなきゃいけないことという点は変わらないけれど、「オーナーシェフの仕事として」と並んで「趣味を楽しむため」が加わりました。経営をちゃんとやらないと好きなお料理が出来ない!と思えば、経営の勉強にも自然と気持ちが入ります。
しかも、僕の趣味にはチームが不可欠です。厨房スタッフとホールスタッフ、そして僕が加わって一つのチームとして挑むからこそ、僕がレストラン ラ クレリエールで出したいと思っているお料理が出来るし、お客様にも楽しんでいただけるし、僕自身も、趣味の楽しみが得られます。
僕の「仕事」は、ただお店を維持するだけの経営ではなく、チームを守れる経営でないといけない。それを全力でやって、好きな「趣味」も思い切り楽しめるようにするのが、クレリエールのオーナーシェフとしての柴田秀之の建付けだと見極めることが出来ました。そして、料理を趣味と見切れたことが、僕にとってコロナ自粛中の最も大きい変化でした。
変化が変化を生む
この変化のおかげで、料理に向き合うことが楽になって、気持ちも軽くなりました。朝お店に来てアスパラガスの皮を剥いている時から、もう楽しい。だって、僕の大好きな「趣味の時間」ですから。最後のお客様をお見送りし、片付けをしてスタッフを帰すまでずっと「趣味の時間」なので、息つく間もないほど忙しくて大変でも、楽しい。楽しいから、当日の急な変更にもイライラしません。余裕をもって対応できます。
スタッフへの接し方も変わりました。仕事への姿勢や出来栄えを本人の人柄と切り離して考えられるようになりました。僕の中に新しい価値観が生まれたからです。さらに、チームを俯瞰で見られるようにもなったことで、自分のことも客観的に見えるようになって、よりセルフコントロールできるようになりました。
お抱えシェフのいる「ホーム」
オーナーシェフのもう一つの大事な役目は、どんなレストランを目指すのかをスタッフ全員に明確に示すことだと思っています。僕が考える「クレリエールの目指すもの」は、「お客様にとってのホームになること」。
ホームとは「家」、つまり「帰ってくる場所」です。クレリエールには、レストランが大好きで日常的に国内外の様々なお店に行かれている方が数多くいらっしゃいます。そんなお客様に「いろいろ食べに行くけれど、他のお店に2回行ったら戻って来たくなる」と言っていただけるようなレストランになれたら嬉しいですね。
そして、ホーム=「安心できる場所」でもあります。きちんとしているけれど堅苦しくなく、「ここに来ると落ち着ける」と思えるサービスと空間、そして必ず美味しいお料理が出てくる安心感。僕は、クレリエールのお客様の「お抱えシェフ」になりたいと考えています。前回、「かんだ」での感動をフレンチレストランである自分の店で実現したいと思ったとお話したように、お客様ひとりひとりに対し、その方に合わせて完成させたお料理をお出しできる店でありたい。お客様にとっては、自分のためにドンピシャな料理を出してくるお抱えシェフがいるも同然、というくらいになりたいのです。そのために、サービススタッフが見たり感じたりして伝えてくれる情報が大事ですし、当日の天候なども考慮します。僕自身も常にアンテナを張り、例えばお客様がフレンチレストランに続けて行かれているのをSNSで発信されていたら、被らないお料理に変えてお出ししたりもしています。
「ミシュランの三つ星をとる」も、「クレリエールが目指すもの」ですね。
次回からはミシュランの星のお話をしていきたいと思います。
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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。
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