ラ クレリエールの料理集 vol.7
東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。
今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
→ 第一章 レストランのシェフになる
→ 第二章 プロの世界へ
→ 第三章 「料理長」を見据えて
→ 第四章 レストラン ラ クレリエール
→ 第五章 オーナーシェフの「仕事」
→ 第六章 ミシュラン三つ星を目指す
「料理集」のバックナンバーです。
→ vol.1 第一皿(résumé) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
→ vol.2 第一皿(recette) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
→ vol.3 第二皿(résumé) 桃のガスパチョ
→ vol.4 第二皿(recette) 桃のガスパチョ
→ vol.5 第三皿(résumé) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド
→ vol.6 第三皿(recette) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド
第4皿(résumé) 雷鳥のロースト
この料理のポイント
*従来の雷鳥料理とは全く違う食感
*むね肉×モモ肉の二本立て
*フォンドグールースをフルに生かすソース
成り立ち
このnoteを読んでくださっている方々は、フレンチの雷鳥料理はどのくらい召し上がっていらっしゃるのでしょうか?正直な話、僕はずっと雷鳥料理を心底美味しいと思ったことがありませんでした。ル・グラン・ヴェフールで働いていた時も、お店では出していませんでしたが同僚のフランス人に「本当に美味しいと思って食べているのか?」と尋ねたくらいです。
しかし、ある時、先輩のシェフに言われた「どんな素材も美味しく食べさせるのがフランス料理」という言葉が、僕の挑戦心に火を点けました。なんとかして「自分が本当に美味しいと思える雷鳥料理」を作り出したい!と試行錯誤を重ね、ようやく納得できる一皿に辿り着きました。ところが、いざお客様にお出しすると、「美味しい!」と感激される方がいらっしゃる一方で「これは雷鳥じゃない」と仰る方も一定数いらっしゃる。そこで、さらに工夫を加え、むね肉を使った“柴田の雷鳥料理”とモモ肉を使いクラシックな味わいを踏襲したお料理を組み合わせた“ラ クレリエールの雷鳥料理”が誕生しました。
メイン食材「雷鳥」
クレリエールで使う雷鳥は、全てスコットランド産です。毛付きの状態で仕入れ、熟成させずに出来るだけフレッシュな状態で使います。
むね肉は、オイルバスで加熱します。雷鳥は皮が非常に薄いため、鴨や鳩のように皮目から焼いたり出来ません。鉄板に置いた途端に肉に火が通って固くなってしまうのです。しかし、肉の特長である筋繊維の細やかさは生かしたい。そうして選択したのが、油を使ってコンフィより低い温度帯でじっくり過熱するオイルバスでした。最後にバターで表面をさっと焼いて仕上げます。
すると、そのシルキーな肉質が損なわれず、食べた時に口の中でねっとり広がって、喉をするんと通っていく。雷鳥肉だからこその食感を楽しめる仕上がりになりました。ところが従来の味わいと全く違うため「雷鳥じゃない」と思われてしまうのです。
そこで、モモ肉は手法をガラっと変えて、従来の「雷鳥の味わい」を楽しんでいただける仕立てにしました。骨を取り除いたモモ肉で干しプルーンとブーダンノワールをファルシーにして網脂で包んで焼き、その上にフォアグラのポアレを乗せるスタイルです。ソースは、マデラ酒とエシャロットに生クリームを加えたクリームソース。雷鳥特有の針葉樹のような香りや苦みがしっかりと感じられるお料理です。
フォンドグールースとソース
一般的に鶏系のフォンは長く煮込まないものですが、僕は雷鳥のフォンだけは長時間煮込みます。長い時は2日かけることもあります。実は雷鳥には煮込んでいるうちに味が変わるポイント=美味しくなるタイミングがあるのです。個体差があるので「●分後」「●時間後」と具体的には言えないのですが、そこは料理人の勘所というか感覚で“分かり”ます。雷鳥のガラ、酒、野菜で非常に美味しい、深みのあるフォンがとれます。
そのフォンをベースにソースペリグーやソースボルドレーズを合わせるだけでも十分美味しいソースになるのですが、僕はジビエの美味しさをより感じていただくためにひと捻りしています。カギは、雷鳥の内臓から作った自家製の発酵調味料と水で淹れたコーヒー。ちょっと想像がつかないかもしれませんが、僕が思う「フランスで食べられている雷鳥の味わい」を実現する唯一無二のソースです。
クレリエールでは。雷鳥のお料理は10月しかお出ししません。シーズンとしては11月12月もありますが、旬のはしりをお楽しみいただくことにしています。例年30羽ほど仕入れ、終わったらその年の雷鳥料理は終了。次は1年後です。ありがたいことに毎年楽しみに来てくださるお客様も多くいらっしゃいますので、ご興味のある方はお早めにご予約ください。クレリエールでしか味わえない雷鳥の魅力を実感いただけたら幸いです。
※今回の「雷鳥のロースト」は、調理法や素材が独特なため、通常記事の「後編(recette編)」としてではなく、音声なども活用した新しい形での公開を予定しています。準備が整い次第、お知らせします。
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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。
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