ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.25
東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
第五章 オーナーシェフの「仕事」
vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
→ 第一章 レストランのシェフになる
→ 第二章 プロの世界へ
→ 第三章 「料理長」を見据えて
→ 第四章 レストラン ラ クレリエール
25.人のつながり
泣きどころだったワイン
お客様の広く温かい心にも支えられて順調にスタートしたレストラン ラ クレリエールですが、僕にはオープン前から頭を悩ませていたものが一つありました。ワインです。
ひと昔前なら「料理が良い」だけでOKだったフレンチレストランも、今は「ワインと料理の両方が良い」でないと許されません。ある程度のレベル以上を目指すなら、なおさらです。当時の僕は料理一筋でワインはまだまだ勉強不足。店も高価な銘醸ワインをいくつもストックできるような財力はありません。そこで選んだのが「美味しいワインを飲みたかったら持って来て!」作戦でした。お店のラインナップは、支配人が酒屋さんやワイン業者さんと決めた「コースの価格帯に見合ったワイン」に限定し、もっと良いワインが飲みたい方には持ち込み料3,000円でお好きなワインを持参いただく。そんなやり方を笑って受け入れてくださったお客様に、今も感謝しています。
出来る人の力を借りる
とはいえ、出来ることに収まっていたら進歩はありません。中で出来ないなら外の力を借りよう!とお願いしたのが、「乃木坂しん」の飛田泰秀さんでした。飛田さんは、フランス料理や日本料理の星つきレストランで支配人兼ソムリエとして活躍してきた方で、「乃木坂しん」もクレリエールの2か月後オープンで忙しい中、快く引き受けてくださいました。そしてワインだけでなく、営業時間にお客さまとして過ごし、サービスの仕方やワインを聞くタイミングと料理を出すタイミングなどについても鋭く的確なアドバイスをくださいました。また、最初の支配人が病気で退社した時には、「乃木坂しん」の紹介でパリの二つ星レストランでシェフソムリエを務めていた建部洋平さんが手伝いに来てくださいました。建部さんには現在もワインのコンサルティングをお願いしています。
他にも様々な業種・職種の方々にお力添えをいただいていて、僕自身、興味があると積極的にお話を伺ったりもしています。
スタッフを叱る
始めに言ってしまうと、僕はスタッフのことが大好きです。そしてそれとは別に、プロとして叱るべき時にはしっかりと叱る自分がいます。
僕が叱るのは大まかに2パターンあって、一つはちゃんとやったら出来ることをやらなかった時。もう一つは、同じ失敗を2回やった時です。失敗したことより、失敗すると分かっているのに対策をしないことを叱ります。その際、お客様に迷惑がかかってしまうようなら、その場は僕が代わりにやり、次の時には横に立って一つ一つ作業の理由を説明しながら一緒にやります。それでも違うやり方をしようとしたり手順を抜ことしたりする時は、理由を聞きます。それが理に叶っていれば受け入れ、「変えるのは構わないが、変える時は言って欲しい」と伝えます。僕のやり方が常にベストとは限りません。結果的に仕事のレベルが上がるのなら良いと思っています。
しかし、お客様の安全を脅かしたり満足度を下げるようなことをしたりした時は、その場で厳しく叱ります。ただし、頭ごなしには叱りません。プロとしての仕事を責任もってやって欲しいのと同じくらい、萎縮せずのびのびと仕事して欲しいからです。「お前のことはすごく好きだけど、これをやったら全員死ぬぞ!」とか、よく言っていますね。
あと、僕は叱りますが、怒りません。怒ること=感情がブレることで、そうすると僕自身が良い料理を出すことが出来なくなるからです。
それから、僕は朝のまかないをスタッフと一緒に食べません。やることが一番ある時間帯で座って食べている暇がないのもありますが、朝食くらいはシェフがいない方が良いだろうと。けっこう気を使っているでしょ?(笑)
その甲斐あってか、僕がミスしても気づいたスタッフが指摘し修正できる厨房になっています。
お世話になった方々や先輩、同僚、そして後輩との関係
僕はクレリエールをオーナーシェフとしてオープンするまで、本当にいろいろな方のお世話になり、力をいただいてきました。だから、開店のお知らせも手紙やカードをただ送るだけにしたくなくて、1軒ずつ直接ご挨拶に伺いました。河野シェフ、石井シェフ、岸本シェフなど僕を育ててくださった方々やシェフ仲間、お世話になった方など50名くらいでしょうか。開業準備をしつつ、自転車を飛ばして朝のサービスタイム前の時間やアイドルタイムに小川軒のレーズンサンド持参で伺いました。
後輩たちも、常に「自分の持っている技術は全て伝える。失敗したらフォローする」という姿勢で接していたからか、今でも何かあると相談に来てくれたりします。ちなみに、クレリエールのHPは元モナリザのサービススタッフに作ってもらいました。彼が「将来的にWEBの仕事をしたい」と言ってモナリザを辞めた時、僕は「自分の店をオープンしたら仕事を依頼するよ」と言ったんです。別の後輩が転職したワイン輸入会社からワインを仕入れいていたこともあります。そして今年、2021年にはシンガポールに行く後輩と沖縄で出店する後輩の二人がいます。後輩たちには、お互い立場は変わっても、僕に出来ることはしたいし、応えられることには全力で応えたいと思っています。
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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。
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