ラ クレリエールの料理集 vol.1
東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に、料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思います。
今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
→ 第一章 レストランのシェフになる
→ 第二章 プロの世界へ
→ 第三章 「料理長」を見据えて
→ 第四章 レストラン ラ クレリエール
→ 第五章 オーナーシェフの「仕事」
→ 第六章 ミシュラン三つ星を目指す
第1皿(résumé) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
◇◇◇ この料理のポイント ◇◇◇
*旬を迎える日本の食材、「鱚」をフランス料理の一皿に
*ジャガイモのクレープとバニラのソースの組合せ
*北半球(日本)で旬の鱚と南半球(オーストラリア)で旬の黒トリュフの出会い
成り立ち
梅雨から初夏にかけて旬を迎える鱚の美味しさをフランス料理で味わっていただきたい!と考えて作ったお料理です。鱚は、独特の柔らかさと味わいをもつ魅力的な食材ですが、フランス料理ではまず使われません(少なくとも僕は見たことがありません)。天ぷらで食べると本当に美味しいですよね。おそらく日本人の殆どの方が、鱚と言ったら天ぷらを思い浮かべるのではないでしょうか。
実は僕も「天ぷらが一番!」と思っています。そして、儚く繊細な味わいはとても日本的だと感じており、だからこそ、使いたい。日本で星を目指すフレンチレストランとして、日本の食材を使い、その良さを最大限に生かして日本を表現したい、お客様に楽しんでいただきたいという想いがあるからです。
メイン食材「鱚」
鱚は実にフランス料理に落とし込みづらい食材です。バターに合わないし、身が薄くて繊細すぎて焼いたりソテーしたりしただけでは美味しくなりません。良さを生かすには、天ぷらのように衣に包んで加熱する「間接的な火入れ」が大原則。天ぷらの場合は、衣が食感のコントラストで身の柔らかさを引き立てると共に、身の甘みも凝縮させるので、ひと口食べて「美味しい!」」となるのだと思います。
その天ぷらに劣らない一皿でなければ、わざわざクレリエールで出す意味はありません。先ずはフレンチ版の揚げ物、ベニエで挑戦しましたが、天ぷらには及ばず。そこで「揚げる」=「蒸す」+「焼く」と捉え、試行錯誤を繰り返した結果、ジャガイモのクレープとの組合せに行きつきました。ジャガイモのクレープ生地を通して優しく火入れすることで、鱚の美味しさを最大限に生かすことができると考えました。また、フランス料理の伝統的な手法を用い、脂の乗ったスモークサーモンをアクセントに加え、全体をまとめるポイントとしました。
ジャガイモのクレープ
ジャガイモのクレープは、今でこそフレンチの定番の一つですが、もとはフランス、ブレス地方の三つ星レストラン「ジョルジュ・ブラン」の名物料理。オーナーシェフのムッシュブランが、お祖母様発案のレシピを元に作り、帆立、キャビア、ブールブランソースと組合せた一皿で三つ星を取ったとも言われています。ジョルジュ・ブランは日本の料理人を多く受け入れてきていて、僕の師匠である「レストラン モナリザ」の河野透シェフも修業されました。つまり僕から見たら、ジャガイモのクレープは師匠の師匠の料理ということですね。
モナリザで河野シェフは鮎と組み合わせていました。そして、添えられていたのがキャビアとバニラのソースでした。
バニラのソース
ご存知のように、甘い香りが特長のバニラはデザートでよく使われます。それを料理で、しかもバター系のしょっぱい料理にバニラを入れるという発想に僕は心底驚きました。フランス人の感性を持っていないと思いつかない組合せだと思います。
でも実際に食べてみると、ジャガイモのクレープとバニラのソースは絶妙に合うのです。クレリエールでも初めて召し上がったお客様の多くが、その相性の良さに感動したと仰います。中には、毎年これを目当てに来るほど気に入ってくださる方もいらっしゃいます。
オーストラリアの黒トリュフ
モナリザではバニラのソースにキャビアを合わせていましたが、クレリエールではバニラと相性の良い黒トリュフを合わせています。近年、オーストラリアの良質な黒トリュフが入るようになってきたのを受けて、僕は、冬に入ってくるヨーロッパの黒トリュフとは違う使い方を見出したいと思っていました。そして、このソースはまさにオーストラリアの黒トリュフにふさわしい料理だと思っています。
一見シンプルなソースですが、作るのはなかなか大変でコツが要ります。というのも、濃度を出すためには沸騰するまで温度を上げる必要がありますが、バターとトリュフは一定温度以上になると肝心の香りが飛んでしまう。どうやって濃度と香りを上手に最頂点に持っていくか?料理人の技術と工夫の活かしどころです。
次回は、レシピと共にそんな工夫についてお話したいと思います!
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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。
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