ADHD評価におけるPC端末検査 ~心理検査機械は、ハッタツショウガイの夢を見るか~
心理検査実務者向けのノートです。いろいろネットを中心に学んで考えたことの整理したものをシェアしたいと思います。
心理検査とPC
発達障害の心理検査って新しい道具がポンポンとでてくるし、なかなか尽きません。「うつ病」の検査なんてあたらしいのなんていつ?ていうのとくらべると、今の状況が活況なのがわかります。今は心理検査界隈も「発達障害バブル」なのでしょうね。
発達障害の検査、とくにADHDの検査に限って、パソコンがでてくるんです。パソコンを使った検査、PC端末の画面に向かって操作をすることで評価をする、神経心理学的な検査が開発されています。
時代が変わっていくかもしれません。昔は心理検査に「パソコンはからませないのさ」が主流だった。こんな一文が思い出されます。
村上春樹は、クールに走りながらipodをつかってなかった。そうだそのとおりだ、パソコンからませちゃいけない。でも今や自分も音楽はデジタル。心理検査もまたしかり、かもしれません。
I’m old fashion ~ロールシャッハのアナログな語り
いやまてよ。きっと今までの検査者はおもうのです、ロールシャッハテストを画面でみてやれるかよ!そんなのロールシャッハじゃないぜ!『心理検査はローカルな、”手技”なのだ。手を介し、アナログな道具を介し、その場のその部屋の窓の彩光の、些細なものすべてがその空間を成立させるのだ』と。一つの一期一会の芸術の作品のごとき営みが心理検査にはある。例えばその極北に田澤安広先生の論文はあります。ほぼ哲学書。ローカルな、アナログな、一期一会の出会いの世界。
いいですねえ、田澤先生。パソコンの前でポチポチとやって人の介在するテイストが極力排除された空間での検査は、もう別次元なのかもしれません。いつか心理検査者は、パソコンのメンテナンスやデータ収集とかが主になっていったりするのかな。
前置き長かったけれど、これから本題。まだ未邦訳・日本上陸前のものをならべてみたいとおもいます。
1,Qb test
ベビーチーズじゃありません。そりゃQBB。
アメリカのQbtech社が開発したPCの前に座って行う検査。モーションセンサーで動きを検知。加えて、画面に課題があわられてボタンを押して回答する、という検査。
Qbtech社のホームページ冒頭がすごい
そう、FDA認証。これって日本でいうところの厚生労働省認可でしょうね。検査の様子はyoutubeでもみれます。
でもさ、たいして売れてない商品でニッチなものでだれもつかってないなんてことあるんじゃないか?とも想像したりしてました。日本じゃ誰も興味がなさそう。(google検索して「日本語のページ」ってだしてもなんにもひっかかんねえズラ)
でも、イギリスでは結構使われてる、ってことがわかる論文が
イギリスのCAMHSってどんな機関かわからないけれど、実装されたんだぜ、ということはわかります。
2,Quotient ADHD system
ロビン・ワックスマン博士という人のページでみつけました。冒頭にはこんな一文
まじか。ハーバード大学でそんな開発があったのか。ロビン先生のサイトだと詳細がよくわかりません。ロビン先生も存じ上げません。唯一のFDA認証ってどういうことでしょうか。Qbより先んじてたのでしょうか。そしてニューヨークタイムスでかかれた記事なんてリンクがある。注目度も高いものなのかもしれません。他のサイトでみつけた、QuotientADHDの検査方法
こりゃたぶん、Qbテストと似ているんでしょう。パソコン画面で、刺激を提示されて、ボタンを押して回答。その様子はカメラでみられて、モーションキャプチャー。
4,TOVA
The test of variables of attention (TOVA)のこと。日本でも研究があって、児童のADHDの診断に使える、という研究があります(Wada,N(2000))。
似てるんですね、いままでのと。画面見てカチカチ。TOVAを専門にやっている会社があってそのサイトによれば
四角の中に四角があって、正解と不正解があって、画面にでてそれをボタンで反応。健康診断の時の聴覚検査を思い出します。ピーピー、カチカチ。こんなのを20分くらいやれば検査終了、ということです。
5,neurolanchのADHDパズルテスト(?)
「ADHDにパズルがいいんだぜ」という記事を学術的に語るneurolanch社は、ADHDパズルテストを提供している模様・・・・だけれどサイト見ても、パズルテストの姿があまり見えないんです。いろんなパズルをあげていてそれで測定できる、みたいにはかいてあるけれど。ひょっとしたらこれも画面つかうやつ?・・・かわからないけれど、ひょっとしたらとおもってあげています。
なによりneurolanch社の記事がおもしろい。ちらほらみるかぎり、パズルとかゲームとかがADHDの治療や評価に有効なんだ、という記事が並んできます。参考文献も文末についてるし、なかなか学術的論理的に読ませるね、なんておもうのがならんでます。そう↑上記の、Quotient ADHD systemの詳細を紹介しているのも、このneurolanch社でした。(日本にも似たようにみえる企業があってeaspe社もにてるようにみえます)。
おわりに~「フォークト-カンプフ検査」な不安
そして最後にあげるのは、フォークト=カンプフ検査。人間とレプリカントを識別する検査で、質問への回答に対しての生理的反応を指標に検査・・・ってこれ映画「ブレードランナー」じゃないですか。いや、でもねパソコンが間に入って行う検査のイメージってこれでした。ディストピアな未来SFの、くらいシーンに出てきてた検査。そう、ぼくはどうにもパソコンでの検査にいまだ抵抗があるのです。それはこのシーンが脳裏にこびりついているからかもしれません。原作者PKディックよろしく、はたして機械で判定されたADHDは「ほんとうのじぶんなのか?別な世界の自分ではないのか?」。いわゆる「ディック感覚」。自分の存在基盤をゆるがす不安。パソコンによる心理検査への抵抗は、ディック感覚にも似た不安なのではないか、とおもうのです。「機械がほんとうにこころがわかるのか。機械に定められた自分のこころとはなんなのか」。
とまれ生成AIと「はなす」人も多くなってきた昨今。こうした不安は、「フォークト=カンプフ検査」な不安は、少なくなってきているのかもしれません。
こうした検査もいつかぼくらのまえにくるのでしょうか。これらが既存の検査と共存して協働できる日がくるといいなあとおもいます。
参考文献
・Wada,N(200).The test of variables of attention (TOVA) is useful in the diagnosis of Japanese male children with attention deficit hyperactivity disorder.Brain and Development 22 (6), 378-382, 2000-09.Elsevier BV