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ADHD評価におけるPC端末検査 ~心理検査機械は、ハッタツショウガイの夢を見るか~

心理検査実務者向けのノートです。いろいろネットを中心に学んで考えたことの整理したものをシェアしたいと思います。


心理検査とPC


 発達障害の心理検査って新しい道具がポンポンとでてくるし、なかなか尽きません。「うつ病」の検査なんてあたらしいのなんていつ?ていうのとくらべると、今の状況が活況なのがわかります。今は心理検査界隈も「発達障害バブル」なのでしょうね。
 発達障害の検査、とくにADHDの検査に限って、パソコンがでてくるんです。パソコンを使った検査、PC端末の画面に向かって操作をすることで評価をする、神経心理学的な検査が開発されています。
 時代が変わっていくかもしれません。昔は心理検査に「パソコンはからませないのさ」が主流だった。こんな一文が思い出されます。

今のところは僕はまだ音楽とコンピュータをからめたくはない。友情や仕事とセックスをからめないのと同じように

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫 )村上春樹 2010

 村上春樹は、クールに走りながらipodをつかってなかった。そうだそのとおりだ、パソコンからませちゃいけない。でも今や自分も音楽はデジタル。心理検査もまたしかり、かもしれません。

I’m old fashion ~ロールシャッハのアナログな語り

 いやまてよ。きっと今までの検査者はおもうのです、ロールシャッハテストを画面でみてやれるかよ!そんなのロールシャッハじゃないぜ!『心理検査はローカルな、”手技”なのだ。手を介し、アナログな道具を介し、その場のその部屋の窓の彩光の、些細なものすべてがその空間を成立させるのだ』と。一つの一期一会の芸術の作品のごとき営みが心理検査にはある。例えばその極北に田澤安広先生の論文はあります。ほぼ哲学書。ローカルな、アナログな、一期一会の出会いの世界。

 次に被験者は,一定の教示を受けた上でテスターから図版を手渡される。被験者の「ここは,もはや外面的腹擦との関係で方位づけられたひとつの「位置」ではなく,図版に対する活動的な身体の投錨,あるいはブロットを解釈するという課題に面した「身体の状況」へと変貌する。図版を手に持って定位することによって,さしあたって手だけが強調されて,身体全体は「まるで琴星の尾のように手の背後へと流れていっている 」(MerIeau-Ponty,1945)

個性化の状況論-ロールシャッハ状況の現象学的分析
田澤安広
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/28866

 
 
 いいですねえ、田澤先生。パソコンの前でポチポチとやって人の介在するテイストが極力排除された空間での検査は、もう別次元なのかもしれません。いつか心理検査者は、パソコンのメンテナンスやデータ収集とかが主になっていったりするのかな。

 前置き長かったけれど、これから本題。まだ未邦訳・日本上陸前のものをならべてみたいとおもいます。

1,Qb test

   ベビーチーズじゃありません。そりゃQBB。
 アメリカのQbtech社が開発したPCの前に座って行う検査。モーションセンサーで動きを検知。加えて、画面に課題があわられてボタンを押して回答する、という検査。
 Qbtech社のホームページ冒頭がすごい

QbTest は、ADHD の評価と治療に役立つFDA 承認の医療技術です。
患者の ADHD の中核症状 (多動性、衝動性、不注意) に関する客観的なデータを提供し、治療効果に関する洞察を提供します。当社のADHD テストは、20 年以上の調査と 40 件を超える研究に基づいています。

Qbtech ホームページよりhttps://www.qbtech.com/adhd-tests/qbtest/
google翻訳

 そう、FDA認証。これって日本でいうところの厚生労働省認可でしょうね。検査の様子はyoutubeでもみれます。

動画「Qbtest how it works」

 でもさ、たいして売れてない商品でニッチなものでだれもつかってないなんてことあるんじゃないか?とも想像したりしてました。日本じゃ誰も興味がなさそう。(google検索して「日本語のページ」ってだしてもなんにもひっかかんねえズラ)
 でも、イギリスでは結構使われてる、ってことがわかる論文が

背景
 QbTest は、注意欠陥多動性障害 (ADHD) の診断を支援するために設計された、注意力、衝動性、および活動性を検査する市販のコンピューター テストです。Health Innovation East Midlands (旧 East Midlands AHSN) は、2020 年 4 月から 2023 年 3 月までの間、イングランドの児童および青少年精神保健サービス (CAMHS) および小児科施設の 15 の Health Innovation Networks に代わって QbTest の実装を主導しました。

Sophie S. H et al(2024)A national evaluation of QbTest to support ADHD assessment: a real-world, mixed methods approach. BMC Health Services Research.08 October 2024
Volume 24, article number 1201, (2024)
(冒頭部分のみ、google翻訳)

イギリスのCAMHSってどんな機関かわからないけれど、実装されたんだぜ、ということはわかります。

2,Quotient ADHD system

 ロビン・ワックスマン博士という人のページでみつけました。冒頭にはこんな一文

Quotient ADHD systemはADHD の診断からより主観性を減らすためにハーバード大学で開発されました。これは、多動性、衝動性、不注意を客観的に測定するために FDA の認可を受けた唯一のシステムです。

https://robynwaxmanphd.com/quotient-adhd-system/
(google翻訳、一部改訂)

 まじか。ハーバード大学でそんな開発があったのか。ロビン先生のサイトだと詳細がよくわかりません。ロビン先生も存じ上げません。唯一のFDA認証ってどういうことでしょうか。Qbより先んじてたのでしょうか。そしてニューヨークタイムスでかかれた記事なんてリンクがある。注目度も高いものなのかもしれません。他のサイトでみつけた、QuotientADHDの検査方法

 このシステムは、一連のタスクと継続的なモーション トラッキングを通じて、注意力、多動性、衝動性を測定します。注意力については、一連の幾何学的図形が画面上に表示され、被験者は特定のターゲット図形に反応し、他の図形は無視する必要があります。これにより、持続的な注意力、選択的注意、反応抑制が評価されます。多動性は、テスト全体を通じて微細な動きも記録するモーション トラッキング システムによって測定されます。衝動性は、モーション データと、画面上のタスクに対する被験者の反応パターンの両方によって評価されます。

neurolanch社のブログより
https://neurolaunch.com/quotient-adhd-test/
(google翻訳)

  こりゃたぶん、Qbテストと似ているんでしょう。パソコン画面で、刺激を提示されて、ボタンを押して回答。その様子はカメラでみられて、モーションキャプチャー。

4,TOVA

  The test of variables of attention (TOVA)のこと。日本でも研究があって、児童のADHDの診断に使える、という研究があります(Wada,N(2000))。
 似てるんですね、いままでのと。画面見てカチカチ。TOVAを専門にやっている会社があってそのサイトによれば

 ・TOVA は、応答時間の変動性 (一貫性)、応答時間 (速度)、実行 (衝動性)、および省略 (集中力と警戒心) を計算します。 
 ・視覚テストでは画面上に刺激が点滅し(聴覚テストではスピーカーから刺激がビープ音で鳴り)、テストを受ける被験者は小さな手持ち式マイクロスイッチを使用して、できるだけ迅速かつ正確に反応します。

The TOVA companyサイトより
https://tovatest.com/how-tova-works/
(google翻訳)

 四角の中に四角があって、正解と不正解があって、画面にでてそれをボタンで反応。健康診断の時の聴覚検査を思い出します。ピーピー、カチカチ。こんなのを20分くらいやれば検査終了、ということです。

5,neurolanchのADHDパズルテスト(?)

 「ADHDにパズルがいいんだぜ」という記事を学術的に語るneurolanch社は、ADHDパズルテストを提供している模様・・・・だけれどサイト見ても、パズルテストの姿があまり見えないんです。いろんなパズルをあげていてそれで測定できる、みたいにはかいてあるけれど。ひょっとしたらこれも画面つかうやつ?・・・かわからないけれど、ひょっとしたらとおもってあげています。
 なによりneurolanch社の記事がおもしろい。ちらほらみるかぎり、パズルとかゲームとかがADHDの治療や評価に有効なんだ、という記事が並んできます。参考文献も文末についてるし、なかなか学術的論理的に読ませるね、なんておもうのがならんでます。そう↑上記の、Quotient ADHD systemの詳細を紹介しているのも、このneurolanch社でした。(日本にも似たようにみえる企業があってeaspe社もにてるようにみえます)。

おわりに~「フォークト-カンプフ検査」な不安

 
 そして最後にあげるのは、フォークト=カンプフ検査。人間とレプリカントを識別する検査で、質問への回答に対しての生理的反応を指標に検査・・・ってこれ映画「ブレードランナー」じゃないですか。いや、でもねパソコンが間に入って行う検査のイメージってこれでした。ディストピアな未来SFの、くらいシーンに出てきてた検査。そう、ぼくはどうにもパソコンでの検査にいまだ抵抗があるのです。それはこのシーンが脳裏にこびりついているからかもしれません。原作者PKディックよろしく、はたして機械で判定されたADHDは「ほんとうのじぶんなのか?別な世界の自分ではないのか?」。いわゆる「ディック感覚」。自分の存在基盤をゆるがす不安。パソコンによる心理検査への抵抗は、ディック感覚にも似た不安なのではないか、とおもうのです。「機械がほんとうにこころがわかるのか。機械に定められた自分のこころとはなんなのか」。
 とまれ生成AIと「はなす」人も多くなってきた昨今。こうした不安は、「フォークト=カンプフ検査」な不安は、少なくなってきているのかもしれません。
 こうした検査もいつかぼくらのまえにくるのでしょうか。これらが既存の検査と共存して協働できる日がくるといいなあとおもいます。
 


参考文献

・Wada,N(200).The test of variables of attention (TOVA) is useful in the diagnosis of Japanese male children with attention deficit hyperactivity disorder.Brain and Development 22 (6), 378-382, 2000-09.Elsevier BV


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