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【MMPI研究4】ウォルシュのAの謎~R-PASからはじまって
心理検査で、MMPIやロールシャッハテストを使ってる人向けのノートです。
1,はじまり~ロールシャッハR-PASから
ロールシャッハR-PASには複雑性Complexityという重要でまさに”複雑な”変数が出てきます。複数の変数が複合してできています。ロールシャッハエクスナー法の、DEPIとかCDIとかもそう。R-PASだと、手計算不能(って実際にテキストに書いてある!)くらいに複雑。
複雑性という変数は、ロールシャッハテストスコア全体に影響してくるから特に重要です。「複雑性調整」なる手続きがあります。複雑性の数値の高い低いによって、調整後のスコアをみるかどうかを決めないといけないのです。
マニュアルにこんな一説が
複雑性はIQテストのgやMMPI-2におけるWelshのAのように、ロールシャッハテストの「第1因子」(すなわち主要な次元)にとって優れた指標である
グレゴリー・J・メイヤー(2011)より
ん?第一因子?
2,WelshのAは「第一因子」か
ほうほう、MMPI-2の第一因子が、ウォルシュのA、だと。どういうことだ?
A(不安)尺度はMMPIの追加尺度の代表作。古くから使用されていてどのテキストにもあります。でもまあその解釈は、そんな「第一因子」なんて輝かしい評価がされるようなものではなかったはず。
例えば
A(不安尺度) 高いほど不安で自信がありません
日本臨床MMPI研究会監修、2011
これだけ。
(高得点のひとは)不安、不幸、禁止的、自己疑惑、服従的、エネルギーにかける、集中困難 (低得点の人は)積極的、自信を持っている、考えかたがはっきりしている、時に衝動的
フリードマンら、1989
うーん。第一ってほどじゃなあ。
フリードマン(1989)の本の中にはR(抑圧)との組み合わせの評定はでています。高Aー高R,低Aー高R・・・みたいな組み合わせで評価する解釈文がでています。それってたしかになんでAとRのくみあわせでそんなのでてくるの?という幅広さはありました。例えば・・
高Aー中R 重篤な人格障害があると思われ、義務遂行能力を欠く。混乱した時期があったり、集中力の障害、その他の心理的結果が明らかにみられる場合がある(以下略)
フリードマンら、1989
なんか、不安+抑圧を超えた解釈文ですよね。だから、第一因子?わかんねえなあ・・・・
3、MMPI-2RFで進化していた!
しばらく、ほうっておいたけれど、こんな記述、みつけたんです。
MMPI-2再構成臨床(Restructured Clinical/RC)スケール
1,イントロダクション
・9のRC尺度は新しい一連の尺度を構成し、以下が含まれる
―「士気喪失」の測定
―8つの尺度は臨床尺度の弁別的な中核的特徴を表す
・臨床尺度と関連はするが、異なる別なものである。
―RC尺度は重複していない(9つの尺度間で共有項目がない)
2,なぜ臨床尺度を再構築するのか?
• 臨床尺度の強み:
―経験的キーイング
―広範な経験的妥当性
―広範な実践的経験
• 臨床尺度の疑問:
―尺度の内的相関が思ったより高い
―広範に項目が重複する
―疑問のある“隠蔽”項目
―収束的妥当性と弁別的妥当性の問題
―理論の欠如
3,MMPI-2の批判
・項目の重複と、臨床尺度の共有分散shared variance
―複合的な尺度上昇を引き起こし、強度な精神病理が顕著な状況では、特に弁別的妥当性が弱められる
・臨床尺度の因子分析により、さまざまな理由で大きな第一因子first facterが明らかになった。
―黙認または社会的望ましさ
―ウォルシュの第一因子、“全般的な苦悩”または “全般的な不適応”
・共有している要素は、経験的な尺度構成をすることによって生まれた人工的な産物である
4,RCスケールの開発
RC尺度構成の手順:
1、 “士気喪失”をとらえる
2、臨床尺度の弁別的な“コア”成分を定める。
3、 弁別的なコア成分の核(seed)尺度を構成する。
4、最終的なRC尺度を抽出する。
5,RCスケールの開発
• ステップ1:士気喪失をとらえる
―“MMPI-2の第一因子first factor”に関連する
―ウォルシュのA
―全般的不適応
より(前半5枚スライド部分、拙訳)
MMPI-2RFで定める第一因子、士気喪失(demolarization)は、どうやらウォルシュのAを基にしていたようです。上記の記述だと、Aのどの要素をどんなふうに使ったの?参考にしたの?というのはわかりません。ただおそらくはAを土台に、士気喪失(demolarization)に進化していったんだろうということ。Aの基本概念とかその土台が、その後につながったんでしょうね。
そうだ確かに、こんな記述が
MMPIにおける主たる変動因を明らかにするために、この検査の因子構造に関する研究が数多く行われていた・・・・(中略)MMPIに固有の人格次元を測定するためにWelsh(1956)は不安(A)および抑圧(R)尺度を作成した。
フリードマンら、1989
AやRは昔のMMPI全体に対して行う因子分析の研究の産物。MMPI全体にかかわる重要な”第一因子”・・・・・とまではAとRはいかなかったのかもしれませんが、その後の因子分析を使った研究が、Aを再発見したのかもしれません。少なくとも、現行日本で読めるテキストでのAの解釈文じゃ、”第一因子”な姿ではないですが。確かに、MMPI-2では、AとRはそのままいきのび、ちょっと特権的立場をもってたりしていました。
RC尺度はまた別なノートで改める予定ですが、RC尺度はMMPI-3の基本の尺度になっていきます。MMPI-3がこないと、士気喪失の使い勝手はわかりませんが、現在のMMPIユーザーは少なくともAに注目しておくことができます。来る時代の備えになります。