MMPI採点プログラム自作のススメ
MMPIはエクセルを使えば自分で採点できるプログラムを作れます。 作り方はむずかしくはありませんし、すでに紹介もされています。
日本臨床MMPI研究会 2011 わかりやすいMMPI活用ハンドブック 金剛出版の「第8章 MMPIにおけるコンピュータ援用」(井手省吾著)
をみればわかります。本ノートは、自作の経験をもとに作り方を示します。
1,必要なもの3つ
何が必要か、というと
➀エクセル
②井手先生の論文二つ(各尺度の標準群の平均値と標準偏差、採点キーがわかる)
MMPI追加尺度の基礎資料ー新日本版MMPIの採点キーと標準データー (井手省吾、札幌学院大学心理臨床センター紀要 第12号、2012)
前号論文の訂正表(井手省吾、札幌学院大学心理臨床センター紀要 第13号、2013)
③MMPI冊子(B型、三共房)
②井手先生論文みればわかりますが、「採点キー」とは、各尺度を構成する要素。どの項目が「はい」で得点になるか、「いいえ」で得点になるか、をしめしたもの。上記論文が使える尺度が最も多く網羅されています。
なお、平均値と標準偏差の数値が日本の標準化研究をもとに集められたデーターベースであることが大切だと思います。海外文献みたりするとのっていますGreene(1991)とかにはのってるんですね、採点キーとかもそろって。でも当然海外のグループの平均値で数字は出るんだけれど不適切な方法です。WISCとかで考えるとわかりやすいです。インドネシアの8~9才群の平均値と標準偏差で、数値を出しちゃったら日本人はちがってきちゃいますよね、きっと。
2、エクセル指南 作成のコツ
➀ 画面左端に、回答入力欄
列Aは通し番号(1~550)
列Bは冊子B(三共房)のページ番号
列Cは冊子B(三共房)のページごとの項目番号(1~30)
列Dは「回答欄」 "t"=ture:はい ”f”=false:いいえ ”??”=どちらでもない。このいずれかをここに入力する。
誤入力防止のため「t」のセルを青、「f」のセルを赤、「??」のセルを灰色に表示するように設定している。エクセルの「条件付き書式」を利用(こことか参考)。
列Eは誤入力防止の表示。列Dが「t」には〇、「f」には×、「??」には△を表示する
例えば、E1セルの数式は
=IF(D1="t","○",IF(D1="f","×",IF(D1="??","△","")))
とするとできる。
左端にそろえると便利です。次のプロセスがやりやすくなります。ちなみに「t」と「f」は、井手先生の推奨からやったんだけれど、その実タイプ入力するときにやりにくいです(僕は左手薬指中指を使うけれど、それがねえ、ちとやりにくい)。「t」を「1」、「f」を「2」とかにしてもいいかも。ただ「誤入力防止」にはいいのかな、と思って今もtとfでつかっています。
②尺度計算の基本フォーム
ここで、登場上記論文。
論文をもとに
「mean」が平均値、「S.D.」が標準偏差、「True」「false」欄が採点キー
です。
採点キーのture項目、false項目をそれぞれ入力します。このとき以上のような表にすると、作成上便利。V列に項目番号を間違えずに入力しさえすれば、となりのW列には、数式で
=IF(D52="t",1,0)
と入れます。true項目なので、回答(D列)が「t」と入力されたら「1」を入力しろ、というコマンドになります。
この数式を、Trueの欄の下までだ~っとコピー。W列は数式が「IF(D53="t",1,0)」「=IF(D54="t",1,0)」「=IF(D52="t",1,0)」・・・・・・・とならびます。「D○○」部分を、V列に入力している採点キーと同じ数字に入力しなおせば、数式完成です。
false項目、Y列の数式は
=IF(D57="f",1,0)
です。回答(D列)が「f」と入力されたら「1」を入力しろ、というコマンド。
最後にT値の算出です。基本は
50 + (粗点-平均値)÷標準偏差×10
で算出できます。実際のエクセルでは
=50+(W4-W6)/W7*10
W4はtrueとfalseの特典の合計、すなわち粗点
W6が平均値
W7が標準偏差
です
以上の基本フォームさえできてしまえば、あとはコピーしていって、採点キーと平均値と標準偏差をかえていけば、どんどん尺度がつくれます。
③ 別シートに、結果アウトプットページ
別なシートに、結果をこんなふうにつくっています。
妥当性尺度・基礎尺度をベース(上の図)に、主な指標、下位尺度、代表的な追加尺度(A,R、Esなど)、ほかの追加尺度(O-H,など)、ウィギンス内容尺度、TSCクラスター尺度、インディアナ論理尺度、危機項目各種、人格障害尺度などが使えます(下の図)。
特に「評価」欄は、T値の高低をしめしていて
70以上「++」
54~69「+」
45~30を「-」
29以下を「--」
となるようにしています。T値のセルがF68であるならば、以下のコマンドでできます。
=IF(F68>=70,"++",IF(F68>54,"+",IF(F68>45," ",IF(F68>30,"-",IF(F68>-100,"-- ")))))
シートは、「男性採点」「男性結果」「女性採点」「女性結果」とわけてはいますが、配置の仕方で分けないやり方もできるでしょう。
ほかにもMMPI2(by1)やMMPI×ロールシャッハテストのシートもあります。以前書いたノートのGanellenのMMPIとロールシャッハテスト関連変数の一覧も、MMPI側は一発で出せるようになるわけです。
3、推奨テキスト
妥当性尺度、基礎尺度そして2点コード、とベーシックな解釈には
A.F.フリードマン, J.T.ウエッブ, R.ルヴァク 著,.1999.MMPIによる心理査定.三共房
ですが、多くの追加尺度を見る場合には、「わかる」系が必要です。
冒頭にもあげましたが、
日本臨床MMPI研究会 2011 わかりやすいMMPI活用ハンドブック 金剛出版
もしくは
日本臨床MMPI研究会 2018 臨床現場で活かす! よくわかるMMPIハンドブック(基礎編) 金剛出版
です。
「わかりやすい」と「よくわかる」で採用している尺度がいくつかちがいます。「よくわかる」は、レビット&ゴッツの「MMPI追加尺度の臨床応用」の内容の影響受けているので、それによっていくつかの解釈文がちがっていたりします。
4、おわりに
なれると10分もしないで、回答の入力がおわります。結果も即でる。作るのは大変だけれども、あると大変便利です。
来るMMPI-3の時代には、このような自作プログラムは可能になるのでしょうか?採点キーや、平均値と標準偏差のデータは海外文献だと巻末にのってたりします。そういう研究書が、臨床家には開かれていることを望みます。
多くの尺度を使ってみておもうのが、結局は、「よい研究」が背景にあるのも重要ですが、なにより「よい解釈文descripter」がないと臨床では使えません。多くの尺度を使ってみても、多くの採点キーで構成された尺度でも、薄い解釈文しかないと、所見を書くのは難しくなります。危機項目の項目そのものを見るという習慣でもあればべつですが、たいてい所見をかくときには、尺度を構成している一個一個の項目はみないで、「解釈文」をみます。尺度のかたまり(これとこれとこれをこたえる)のに別次元の意味(その解答するひとは、こういう傾向ある)のが味噌だとかんがえているためでもあります。
以上のプログラムで大量の尺度を算出できるようにはなりましたが、それというのも玉石混交の様々な非公式の尺度が乱立した時代があったためです。MMPI-2以降は、公式の追加尺度が認定されるようになったようです(以前のノート参照)。非公式でも、おもろい尺度が乱立したりしていたら、それはそれで面白い気がするんですよね。ロールシャッハの名大式、阪大式、みたいにいろんなのがならんでたら、おもしろいのになあ。
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