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何気なく見た光景から

最近シドニーは2週間くらい雨が降り続きました。こんなに止まないものかと思うくらいずーっと降り続け、一瞬たりとも太陽を見ることがなかった約14日間。ずっと眠気が取れず、気分もすっかり雨模様。テンションが上がらないどころか、このままだったら心が病むなと本気で思うくらい。普段から天気の悪いイギリスでは多数の自殺者が出るとの話は、なるほどなと思うところです。


僕は普段は自転車を利用し、可能な範囲は自転車移動しています。運動にもなるし、経済的で最高な移動手段です。昔はほとんど自転車を利用している人はいなかったシドニーですが、今では自転車用の通路が敷かれ、通勤の時間になると本格的なロードバイクで会社に向かっている群れを見かけます。

しかし雨に滅法弱いのが難点で天候によって移動手段を変えなければなりません。僕は雨の場合はよくバスを利用しますが、この国のバスは時刻通りに来ない(特に雨の場合は信じられないくらい来ない)のであまり好きではないです。


その日も大雨だったので仕事帰りにバスを待っていました。この日もバスは時刻通りにきません。シティーのど真ん中で人通りも多い中、ホームレスの人が僕のすぐ後ろを通り道端からタバコを拾っているのを見て、ちょっと嫌な思いをした自分がいました。

シドニーにはそこら中に灰皿付きのゴミ箱があり、またタバコを公共の場で吸うことがタブーみたいになっています。日本よりもタバコについてのマナーを気にする国だと思っていましたが、よくよく見ると何も考えずにポイ捨てしてしまう人が山ほどいるんです。ポイ捨てされているタバコを見ると嫌気がさしますが、そのタバコを拾って後で吸うというホームレスの人を見てさらに悲しい思いをします。


環境問題がどうだとか、人としてのモラルがどうだとか、個人的に昔よりよく考えるようになりました。もちろんポイ捨てはしませんし、気になったゴミ(可能な範囲で)は拾って捨てるようにはしています。他人に迷惑をかけるのではなく、他者や社会に貢献しようと思うようになりました。そんな中、そういった景色を見るのはとても辛いし気分が暗くなります。


じゃあ、なぜ人はそういうことをするのだろうか、どうして良いことと悪いことの区別がつかないのだろうか、とその帰りのバスで考えていました。なぜあのタバコを捨てた人はそこにポイ捨てしたのか、なぜホームレスの人はタバコを拾うのか、そもそもなんでタバコをポイ捨てしてはいけないのか。



100人いたら100人違う性格があります。その性格はそれぞれの育ってきた環境から作られ1人として同じ人間はいません。僕も東京で生まれ、日本人の両親に育てられ大学まで入れてもらいました。いろんな経験を経て今シドニーにいますが、みんなそれぞれ違う環境に生まれ、違う教育を受けています。世界には教育を受けられない人もたくさんいる現状です。たまたま僕は幸運なことに何不自由ない環境で育てられ、好きなことを仕事にし、自転車を乗り回せる手足を持ち、雨の日はバスに乗れるのです。中には生まれた環境が違うだけで、拾わないとタバコが吸えないという人たちもいるのが現状です。彼らのバックグラウンドは考えても想像もできませんが、そうなってしまった環境があるのです。

国が違ければ法律や文化、価値観も違います。日本みたいにバスが時刻表通りぴったりくる国もあれば、10分20分遅れてくるのが当たり前という国もあります。そう言った環境も、違った性格を持った人たちが長い年月をかけて話し合って作り上げて形作られた国だったりします。そう考えると、自分が正しいとか、あいつが間違っているとか、相手のバックグラウンドを知る事なく自分の価値観だけで人を判断することがどんだけ軽率な事かわかってきます。


タバコを拾っているホームレスの人を見て気分が落ちてしまった事、そのタバコをポイ捨てした人を想像して嫌な気分になった事、そもそもバスが遅れてこなければその状況を見なくて済んだのにと、バスドライバーにイライラしたことも、よくよく考えれば色んな環境の違いがその出来事を生んでいるわけで、その状況になってしまったことをステップバックしてちょっと考えてみようとふと感じたのでした。色んなことが交わり合って絡み合って今の世の中が存在しています。その瞬間だけで判断することはしないで、少しはそういう普段見かける光景にある背景だったり、物事の全体像を考えることを心がけようと思った秋の夜の出来事でした。



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