ある画家の数奇な運命/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク脚本・監督
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク(脚本・監督)の「ある画家の数奇な運命」を見た。美術の人にはなじみ深い画家ゲルハルト・リヒター(1932年生まれ)をモデルにした映画。
リヒター自身は、「登場する人物の名前はすべて変えること、何が事実で何が事実でないかは絶対に明かさないこと」を映画化の条件にしたとのことだ。自分はのリヒターの「評伝」は読んでいないので、どのあたりまでが「事実」で、どのあたりが映画としての「創作」なのかがよくわからないのだけれど、例えばデュッセルドルフのアカデミーの師であるヨーゼフ・ボイスや級友であるジグマー・ポルケについても、彼らをモデルにした登場人物によってそれなりに描写されている。リヒター(役名はクルト)に向け、ボイス(役名はアントニウス)によって「フェルトと脂肪のエピソード」も語られたりする。
物語は、あの「フォト・ペインティング」(精密に模写した写真イメージを微妙にぼかして描かれた作品群)がいかにして誕生したかという彼の半生を描いた映画であり、正直に言えば「娯楽映画寄り」ではある。もっともゴッホやフェルメール、ポロック、バスキア、ジャコメッティ、シーレ、誰を撮っても(描いても)芸術家の人生は「娯楽」としてあると考えられているのだけれど。
ただ、ナチス政権下のドレスデンの空気や、主人公の戦後の若いクルト(リヒター)の抱える「苦悩」については、3時間の映画からひしひしと伝わってくる。あの「フォト・ペインティング」の正確な描写力は、東ドイツ時代の「社会主義リアリズム」の写実技法と幼少期の幻影がもとになっていると思えば、リヒターの絵画への興味も多少変わってくる。
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 出演:トム・シリング | セバスチャン・コッホ
2020年11月15日鑑賞
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